デザインがうまくなる方法
自分のデザインの軸を持つ
デザインがうまくなる方法の結論は「どれだけ考えて、どれだけデザインしたか」。
ぼくは20代のころ、デザインが全然できなかった。大学生のころは、課題を作品として作ることはできた。でも仕事になった途端、全然できなくなった。僕は任天堂でデザインをしてたので、前田のデザインというよりは、任天堂のデザインを求められた。先輩からはずっと「微妙だな」と言われるだけで、具体的な指示が来ないから自分でデザインの軸を見つけていくしかなかった。
任天堂は物作りが好きな人が集まっているから、みんなよかれと思って色々な意見をくれる。だからといって、それを全部受け入れてしまうとぐちゃぐちゃになる。その修正をするだけで、締め切りは容赦なくやってくる。そんなことばっかりだった。
だから自分のデザインの軸を持つようにした。これが任天堂のデザインとして相応しいと自信を持って言える軸を持つようにしたら、うまく行きだした。
デザインの目的を明確にする
デザインには絶対に目的がある。例えば、ポスターだと「何月何日にこういうイベントがあります」という情報は文字だけで伝えられる。そこにデザインを加えるということは、全ての持つ雰囲気・空気感・魅力といった、言葉にしたら読み込まないといけないようなことを、一瞬で伝えるということ。それがデザインの目的であり、すごいところ。
任天堂時代、デザインでゲームの魅力を伝えるという仕事をずっとしてきた。重要なのは、そのデザインがちゃんと機能するかどうか。デザインは、オシャレなものやイケてるものが良いと思われがちだけど、何のためにやってるかという目的に応えるものでないと意味が無い。
よく「デザイナーズ○○」と言うけれど、これは「デザイン=なんとなくオシャレ」みたいなイメージを植え付ける言葉。何か不便だなと感じた時「いや、これデザイナーズマンションなんで」と言い訳する。デザインを優先したら使い難くなっても仕方ないかというと、それは違う。それは、優先したのは「デザイン」ではなくて「オシャレ」の方。だから、そういうのは「ファッションマンション」が正しい。
こういうところで、日本はデザイン文化を引っ張りきれない。
良いデザインの代表例だなと思うのが「男前豆腐」。あれは目立つことが目的になっている。
普通の豆腐のデザインだと周りに埋もれてしまうけど、これだと思わず手に取ってしまう。
社長は「努力を打ち出しても、消費者にはなかなか伝わらない。手に取ってもらい、試しに食べてもらう。そのためにあるのがネーミングやパッケージデザイン」と言っていた。デザインの目的とはまさにこういうこと。なんとなくオシャレじゃダメ。明確な目的が必要。
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✔時間追われて満足の行くデザインにたどり着けない
✔周囲から色々言われて全部取り入れてたら、よく分からないものになってしまった
✔デザイナーとして食べていける最低限のスキルって?
こんな悩みを解決する具体的な方法を知りたい!という方は、
この先もお読みいただけると嬉しいです。
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無い時間をどう作るか
デザイナーは仕事になると時間がなくなる。いつの間にか時間がなくなって「え!もうちょっと頑張りたかった!」「色々言われた結果、何もできなかった!」なんてことになる。
若いころは、ぼくもゴールが見えていなかった。デザインには答えが無限にあるから、オーダーに答えているうちに締め切りの時間になってしまう。だからこそ、いっぱい作る。
解決方法① クライアントの要望にいち早くたどり着く
まず、クライアントの要望にいち早くたどり着く。クライアントが何を求め、何がゴールで、どうなれば良いのかをちゃんと聞いて理解する。クライアント自身もよく分かっていなかったり、間違っている場合もある。こういう感じが良いと依頼を受けて普通はその通りするけど、それだけやっていても絶対にたどり着かない。投げてることがふわっとしているから、出来上がった時に「うーん、なんか違うな」となる可能性は高い。
これを回避するためには、物理スピードを上げるしかない。いかにショートカットや機能を理解してツールを滑らかに使えるか。会社に入って「どうしよう」となった時、まずはこれしかないと思った。後から修正依頼が絶対くるから、言われた通りやったものと「こっちも作ってみたんですけど」とクライアントを先回りして作ったものを出す。そうすると絶対良いものになるし、主導権も圧倒的に握れる。
解決方法② デザインの鉄板を言語化する
ぼくは今専門学校で生徒に「デザインの鉄板を集めて来い」と言っている。デザインでこれをやったらハズれないというものを、自分のセンスで選んできて、それを言語化しようという課題。見た目だけに走るのは良くないけど、引き出しとして持っていると強い。
これを永遠とやっていたら、デザイナーとしてすごいことになるんじゃないかと思うくらい、若いころの自分に、この課題をやらせたかった。
デザインの鉄板を言語化できていない状態で、闇雲に手を動かしてしまうのが若いデザイナー。自分も発明のようにデザインを生み出せると思いがち。この言葉は完全に尊敬する水野学さんの受け売りなんだけどセンスは知識から生まれる。全部が引き出し。デザインの鉄板が複合されて、本当に使えるようになる。だから、引き出しを増やすという意味で、色んなものを見て、それを言語化するというのが一番の近道だと思う。
デザイナー人生18年くらいを振り返っても、このやり方が最も良いデザインの習得方法。つまり、デザインの引き出しを増やして、センスの知識を集めていく。街中で見つけた良いなと思うデザインは、言葉にしてストックしていく。もし、僕に弟子みたいなのができたら、絶対にやってもらいたいなと思う。
文字が9割、マジ。
素人とプロのデザインは何が違うか。見た目だけでいくと、ぶっちゃけ誤魔化せる。編集者の箕輪厚介さんが言っていたけど、本は中身よりもデザインで良い本になるかどうかが決まる。見た目で誤魔化してデザイナーズ◯◯とかが成立してしまうのは本当は嫌だけど、興味を持ってもらう第一歩としてはありだと思う。
これを押さえればプロっぽくなれるというのが、文字。大体のデザインに文字は入っているし、僕もこの人はどれくらいのデザイナー歴なのかということが、文字を見たら大体わかる。「見た目が9割」という本があるけれど、デザインは文字が9割なの。
モジが9割、マジで(笑)。
フォント、大きさ、文字間、行間
フォントにもクオリティーがある。あまり経験の無い人は「このフォントはちょっとな」というものを割と使っていたりする。
次に、大きさ。情報には優先順位がある。大体ダメなものは、なんとなく全部が大きい。チラシにしても見せる順番がある。一番最初にここを、次はここを読んでもらってという視線の設計が必要。
あとは、文字間。文字と文字の間。このスライドでも「あかん」の「か」と「ん」の間が広い。「ダメな」の間がすごい広がっていて、「文字」のところが狭い。これを揃えるだけでだいぶ違う。デザイン事務所とか入ると、まずこれを叩き込まれる。タイポグラフィーは宇宙と言われるくらい、やり出したら答えが無い。フォントを作った人にちゃんと確認するデザイナーもいるくらい。気をつかって文字間に同じスペースを保とうとするだけでは、全然届かない。
最後に、行間。行間が詰まっていたら読めないし、空きすぎていても読み難い。ベストのポイントがある。雑誌とか分かりやすい。要は「読みやすく、美しく」。これを意識していたら、次第に美しくなる。
プロの条件
プロは、良いものを確実にする。
くまモンをデザインした水野学さんは、微妙な表情の違いを検証するために3,000通りものくまモンを準備した。水野さんでも、絶対良いと思えるものを作るためにこれだけのことをやる。目の大きさはこれがベストだとか。漫画を作っていても、この文字の大きさはこれがベストだとか、1%刻みで作ったりもっとエグかった。
良いものを確実にするためには、攻める。もっと良いものがあるかもしれないと考えたら恐ろしくなってくるから、そういう意味でもいっぱい作って、あらゆる可能性を考えないといけない。そうでないと、後から思い付いても悔しさが残る。やりきる。そして、締め切りが完成。
もし、タイムスリップして1冊、20歳の自分に渡せるとしたら、この本をすすめたい。『大貫卓也の全仕事』(地方・小出版流通センター, 1992)。こういうことがデザインでできるんだと、デザインの可能性を感じさせてくれた。ちなみに『マエボン』にも書評が書いてある。「オシボン」というページに僕のオススメの本があるので見てみて下さい。
おまけ:鹿児島講演での手紙
鹿児島のみなさん
今日はありがとうございました。
駆け出しだったころの自分に向けて話しました。
たくさん詰め込んでしまったので、セミナーとしてはよくないです。
たくさん一気に言われても混乱してしまうので。
ひとつ一番残したいことがあるとしたら、
「デザインはすごい」ということ。
「伝えることを最大化すること」は
思っている以上に反響があります。
人の心に刺さります。
刺さるデザインを目指してください。
ぼくは一旦デザイナーを引退します。
みなさんが今日の前田デザインを継承して言ってください。
ぼくが嫉妬してデザインをやりたくなるようなデザインをみせてください。
これも何かの縁です。なにかあったらなんでも聞いてくださいね。
鹿児島最高。
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「仕事で「童心」を活かす」
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