仕事に「童心」を活かす
ぼくは、つまらない仕事は無いと思ってる。どんな仕事も、おもしろく変えることができる。任天堂時代からずっとそうやってデザインしてきた。
キーワードは「童心」。
仕事をもつ大人にこそ「童心」が必要なんだ。今日は、仕事に「童心」を活かすとはどういうことか、ぼくの経験を交えながら話をする。
「童心」とは「楽しむ力」のこと
「童心」という言葉だけ聞くと「昔を懐かしむ心」という意味にとられがちだけど、そうじゃない。ぼくの使う「童心」とは、子どもの頃のように、無邪気でとにかく何かに夢中になる心のこと。
AI技術の進化とともに人の仕事が減り、仕事と遊びの垣根が溶ける時代がもうすぐやってくる。そんな時代を生き抜くには、全てのことを楽しむ力、遊び心を突き詰めることが大切じゃないかと思ってる。
仕事をつまらなくするのはいつも「自分」だ
【出所:2013オフィシャルイヤーブック任天堂】
ぼくは任天堂時代からずっと仕事に童心を活かしてきた。
例えば、Jリーグ京都サンガのオフィシャルイヤーブック。裏表紙に掲載する広告デザインを担当することになって。この時はWiiの発売の年だったから、Wii本体の価格を書くぐらいでも本当は許された。
でも、何かおもしろいことがしたくて。それでいて、ちゃんと広告として機能するもの。そこで、選手やコーチの集合写真を取り寄せて、Mii(Wiiの中で顔のパーツを組み合わせて似顔絵を作る機能)で、全員の似顔絵を作って広告にした。それが似てる似てないってファンの中で結構話題になって。広告の機能としてもすごくよかった。
取り方によってはちゃちゃっと終わる広告の仕事も、おもしろさを最大化するために工夫した。
これは任天堂の公式LINEアカウント。マリオに出てくるキノピオから「キノピオくん」っていう新たな別のキャラクターを提案して、案内役にした。
さらに、キノピオくんにゲーム実況をさせるっていうアイデアを実現させたり。もう訳わかんないよね。でも、それがおもしろい。
失敗談もある。
1年目のころ、ファイヤーエンブレムっていうゲームのTシャツデザインを担当した。でも、その時はまだ童心がなくて。言い訳なんだけど、すごい忙しかった。「こんなもんでいいっしょ」って適当なデザインを一案出したら、上司に「こんなの全然ダメ、ダサい」ってコテンパンにされた。
それに対して「ダサくてもいいじゃないですか、こんなの」と、当時のぼくはひねくれてて。でも、その後すごく反省した。考えてるうちにファイヤーエンブレムのデザインの面白さに気が付いて「何ておいしい仕事なんだ!」と思えた。そこから目覚めたように15案くらい作って、上司に見せた。そうしたら「おお、すごい!いいね!」って褒められて。
そこで「あ、そういうことだな」と。それまでの自分が、デザインを全然楽しんでなかったことに気が付いた。つまらない仕事はない。仕事をつまらなくしてるのは、自分だったってこと。
前田デザイン室渾身の雑誌「マエボン」
今回、前田デザイン室で作った雑誌「マエボンでは「童心を取り戻せ」をテーマに選んだ。雑誌として世間に発信するメッセージを考えたときに、この「童心」がキーワードになるんじゃないかと考えたからだ。
マエボンは、異例づくしの雑誌。制作期間はたったの2ヶ月で、メンバーの9割が雑誌制作未経験者。しかも日中はみんな働いていて、オンラインサロン初の雑誌だからノウハウもない。
あまりにも負担が大きいと反対するメンバーもいた。そんな無謀に思える挑戦も、ぼくたちは心から楽しんだ。後から知ったことだけど、出版業界の人からしたらかなりありえない方法で雑誌を作っていたらしい。普通の出版社であれば課せられる制約も、非営利のぼくたちには無い。突き抜けたおもしろさを目指して、あらゆる常識を壊していった。
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前田デザイン室が、一見苦しそうにも思える作業をいかにして「ワクワクするイベント」へと変換させたのか?
気になる方は、お付き合い頂けると嬉しいです。
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「お盆deボン」という名のお祭り相談会
ハードワークの中でも、楽しむ方法を常に考えていた。例えば、お盆に開いたマエボン相談会。
マエボン制作チームにとって、お盆といったら佳境の時期。そんな中で「困ったり悩んでることがあったら聞くよ」という趣旨で開いたZOOM相談会がこれ。ただそれだけなんだけど、そのまま言ってもあまり楽しくない。
だから、まずはみんなのテンションが上がるような名前から決めようと。「マエボンでお盆」から「お盆deボン」と命名して、バナーも作った。正に遊び心。単に「ZOOMで相談受け付けますよ」って言っても、ただそれだけ。イベントみたいに盛り上げることで、楽しく気軽に相談できる雰囲気を作った。
これは「朝までがんばらnight」という徹夜イベント。ZOOMを使って誰かと画面越しに繋がりながら、徹夜をする。特にしゃべらないんだけど、画面の向こうに仲間の気配を感じるだけでがんばれるというね。
徹夜は本来しんどいもの。出来ることならしたくない。でも、仕事を含め色んな活動をしていると、忙しくてどうしても徹夜が必要な時がある。そこで普通に「徹夜」という言葉を使っても、ただ辛いだけ。でも、みんなでイベントみたいに徹夜をしたら、ちょっとは楽しめる。言わば徹夜の「ゲーム化」。マエボンの特集インタビューで佐渡島さんが語ってくれたように、何でもゲーム化して楽しんでしまえばいい。
4回の「デキバエ」入稿という戦略
本来、雑誌制作における入稿は1回。でも、マエボンは入稿を4回している。理由は、ぼくたちのチームはメンバーが全国に散らばっていて、「こういう形で入稿してね」と言ってもなかなか情報が伝わり辛いから。それに、メンバーの9割が雑誌制作未経験者。最後の入稿を確実なものにするためにも、経験値を積んでおく必要があった。
マエボンの制作期間は2カ月。それを、「1回目締め切り」「2回目締め切り」って言ってしまうとただ苦しいだけ。編集チームは当初「〇〇%完成」と呼んでいたんだけど、ぼくがむちゃぶりで「もっとテンション上がる名前にして」とお願いして。そうしたら「デキバエ」っていう言葉を考えてくれた。それから、4回の入稿日を「20%デキバエ」「60%デキバエ」「80%デキバエ」「100%デキバエ」という風に呼ぶことにした。
「4回も出させられる」と思うとしんどいけど、「20%で良い」と目安があることで「それくらいで良いんだ」と分かるし、あまり苦しくない。80%デキバエのときは、「100%の気持ちで入稿してくださいね」とお願いした。そうしたら、この時点でデータミスもほとんど無い状態まで持ってこれた。
しかもこの方法だと、進捗管理をしながら、入稿の練習ができる。メンバーが遠隔に散らばるオンラインサロンのようなチームで1つの印刷物を作るときに、これはぜひお薦めしたい。
頭を混乱させるアートなnote
これは、10月5日に前田デザイン室が新メンバーを募集するときにぼくが書いたnote。色んな人にカオスだっていわれる(笑)。
前田デザイン室っていう文字がひたすら羅列されていて、最初見たときには何かのエラーかと勘違いしてしまうほど。「なにこれ!?」って気になって読むと、文字の中に伝えたいメッセージが埋まっていて、最後にコチラってリンクが貼ってある。
noteって一生懸命書いてもあまり読まれない。中にはちゃんと読んでくれる人もいるけど、そのパイを増やしたかった。これは正に、広告の考え方。宣伝なんだけど、相手が気になって読んでしまうという。
ぼくは普段の生活から、全てのものに意味を持たせたいって考えていて。無意味なものでも、できるだけ価値のあるものに変えて行きたい。その切り口が、ぼくの場合は「楽しむ」こと。この「童心」「遊び心」を活かして、心に届くモノを作り続けたいと思っている。
まとめ
おまけ:青山ブックセンターでの手紙
(トークショーの最後は前田高志名物の手紙で締めくくります。)
みなさま
本日はありがとうございました。
イベントのために作った『マエボン』。想定外すぎることが立て続けに起こっています。青山ブックセンター本店さんをはじめ、銀座蔦屋書店、スタンダードブックストア心斎橋、大阪梅田の某Kの国や書店。Dかんやま、蔦屋書店。すばらしい書店からオファーをいただいています。
特に最初に声をかけてくださった青山ブックセンター山下さん、目の付けどころが眉毛の下。目の付け所がシャープ。とにかくすごい。山下さんのおかげで『マエボン』が動き出しました。広告も他の店舗も。本当に感謝しています。
ハッキリいって異常です。
異常。異常事態です。
でも、冷静に考えると3月からスタートした「前田デザイン室」は異常なんですよね。作ってるものと、やってること、異常な熱量のメンバーたち。前田デザイン室の半年、ファーストシーズンがすべて詰まってるのが『マエボン』です。これはみんながリスクをとってやった結果です。その熱量が異常事態を起こしている。
「死ぬこと以外かすり傷」
は正しい。前田デザイン室の『マエボン』が実践、実証した。
マエボンのストーリーは始まったばかりです。今日ここに来てくださったセンスのいい皆さんもその一員です。マエボンともっと遠くに行きましょう。もっといいマエボンvol2が出た時に一緒に喜んでください。
▼前回の記事は、コチラ▼
小豆島講演「躊躇せずに人生を楽しむ」
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