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前デの妄想が現実に。看板職人歴35年のサインズシュウさんが広告に命を吹き込む

「銭湯に、前田デザイン室の鏡広告を出してみない?」


前田室長のこんな呼びかけがきっかけで、大阪の千鳥温泉さんに鏡広告を出すプロジェクトが動き出しました。10日間で16案集まり、最終的にはこの案で広告の出稿を進める……はずだったのですが、字書き職人さんの訃報により、一旦保留状態でした。


どーすんの!?
前田デザイン室!

ここまでが、前回のお話。
そんな時、千鳥温泉の桂さんから、連絡がありました。


「新しい字書き職人さんが見つかりました。しかもTwitterでフォロワーさんも多く、有名な方です」


希望の光が見えてきました。これで、広告を作れる!


いてもたってもいられず、私たちは、看板職人さんの工房へ向かうことにしました。広告を形にしてくださったのは、看板職人歴35年のサインズシュウさん。前田デザイン室のアイディアが現実に形をもった瞬間のレポートとなります。

シュウさんの工房につきました。

工房の中に入ると……

ペンキや筆など、看板に使う道具がたくさん並べられていました。ワクワク。期待が高まります。



看板職人歴35年のサインズシュウさん

こちらが、看板職人歴35年のサインズシュウさんです。

上林修(かんばやし しゅう)
大阪府南部の泉州地域で看板屋サインズシュウを経営。35年間看板職人として活躍している。Twitterフォロワー数6.5万人、YouTube登録者数2.29万人(2021.12.13時点)

私たちの到着にあわせて、前田デザイン室の広告の文字を書いてくださるとのこと。うれしい…!ここからは、インタビュー形式でシュウさんや工房に集まったメンバーの話をお届けします。


下書きはしない。その理由は?

ーーー今日はよろしくお願いします。じゃみぃ(写真左下の猫、前田デザイン室のマスコットキャラクター)のイラストはもう描かれてるんですね!

サインズシュウ:この猫のことですか? 「じゃみぃ」っていうんですね。みなさんでデザインしたんですか?

ーーーはい、コミュニティのデメンバーが作ってくれました。私たちは、デザインやものづくりするコミュニティなんですよ。クリエイターといえば、徹夜をして疲れがちなので……

サインズシュウ:なんでこんな目してるのかと思ったら、疲れてはる顔ですか(笑)。

ーーーそうなんです(笑)。この部分を書くのに、どれくらい時間がかかったんですか?

サインズシュウ:ここまでの部分は、描くのに30分くらいかな。ペンキを乾かす時間を省けば、作業時間はトータルでいうと1時間くらいですね。ペンキの色は下に乗る色から順番に塗ってます。書体の注文は何かありますか?

前田:昔のお風呂屋さんっぽい感じがいいですね。レトロな感じがほしいです。

サインズシュウ:わかりました。ところで、このマークって銭湯のマークとは少し違うような。もしかして……。

前田:バレましたか(笑)。遊び心です。子どもの発想だと思っていただけたら。この広告の前田デザイン室は、童心つまり遊び心を大事にしているコミュニティなんです。

サインズシュウ:そういうことなんですね(笑)。


ーーー枠だけの下書きはない状態で描くのですね。すごいです!

サインズシュウ:枠線だけで文字を書いた方が、筆の太さを利用して書けるので、字が揃うんですわ。逆に物差しや雲形定規を使って文字を書くと、筆の流れがなくてちぐはぐな文字になったりするので。

サインズシュウ:千鳥温泉の桂さんは、細かく指示してくださるんでものすごいやりやすいです。ただ字体は、「丸ゴシック」と指示されても種類があるんで、看板と気分と、その時持ってる筆によってある程度まかせてもらってますね。そこもやりやすいです。

桂:僕らは自分のお風呂屋さんに飾るので、そこにさまざまな字体の広告が並んでた方が面白いなと思っていて……。だから、僕らが知らない字体とかも使ってもらえたら良いなって気持ちでおまかせしています。

ーーーそれにしても、喋りながらこんなに正確に書けてしまうんですね。書いている途中は、話しかけてはいけないのかと思っていました。

サインズシュウ:普段はラジオを聴きながらやっています。多分、書くのと聞くのを脳の別のところでやっているんやと思います。書いてたらあっという間に時間が経っていることもあるんです。

前田デザイン室の広告の文字をあっという間に書き上げたシュウさん。次の近畿浴場広告社に持っていくためには、広告の文字が乾かないといけないので、その間シュウさんにお話を伺いました。


勘が鈍らないようにはじめたTwitterが仕事の窓口に

ーーー今回の鏡広告の依頼はどういう経緯で?

桂:元々鏡広告を作ってくださったが今年1月に亡くなられて、次の職人さんを探そうと思っていたんです。

お客さん経由で別の職人さんにも頼んだんですが、鏡広告はサイズも小さいので何枚も書くのは難しいと断られたりもしていて……。

それで近畿浴場広告社の江田さんに相談したら、サインズシュウさんの名前を出してくださって。別の銭湯で絵を描かれていたと知り、お願いさせてもらいました。

サインズシュウ:そうですね。初めのときは、江田さんが僕を調べて直接ご連絡いただきました。

桂:なので、僕らは江田さん経由です。でもお名前伺って、名前検索したら、TwitterやYouTubeでどんどん発信されていて、以前拝見したことがありました。「字を書くのを見るのがこんなに楽しいんや」って思いました。

サインズシュウ:字を書くだけで、こんなに面白がってくれるなんてありがたい話です。ネットのおかげで声をかけてもらえましたね。


ーーーシュウさんがTwitterを始めたきっかけはなんだったんですか?

サインズシュウ:Twitterは、手書きの勘が鈍らないように毎日練習するために始めたんです。やらなあかんプレッシャーになるかなと。

全然SNSのこと知らなかったのもよくて、投稿を始めたとき、「4人も見てくれてる!嬉しい!」って喜びました。人気はなかったんだけど、そのうち40人見てくれる時もありまして。続けているうちにある日突然PVが数万にはねたんです。通知はえらいことになるし、電池はなくなるし、てんやわんやしました(笑)。


街中の看板を見ることで、目を養う

ーーーやっぱり仕事以外の時間も文字の練習をしないと難しいですよね。

サインズシュウ:いや本当に、24時間取り組まないとダメですね。若い頃に目を養えたのもよかったです。仲間と街の中にある看板を見ながら盛り上がったりもしました。

看板を制作していく上で、どれだけ新聞を見たり、字の勉強をしているか、第3者の目になって自分の字を見れるかが大事ですね。

ーーー看板屋を始めたときは、文字はどうやって習ったんですか?

サインズシュウ:親方の下で働いていた時は親方の書いた文字を見ながらその通りに描く練習をしてました。次に親方の型を真似してなぞる練習。それから自分でも型を取って見てもらって直してもらって……。ありがたいことに、親方に手取り足取り教えてもらえたんです。

ーーー今でも文字を習いたいって人いるんじゃないですか?

サインズシュウ:若い人が「書き字を教えてください」って時折来てくれるんだけど、仕事として教えることはできないから、いい方法がないか悩んでいます。僕がはじめた頃は、仕事がそうやって溢れてたからできたこと。今は書き仕事って主流じゃない。教室とかを開くしかないかなあと。ワークショップを開いたりもしたけど、なかなか努力ができないというか……。

サインズシュウ:機会があって大学に教えに行ったことがあるのですが、すごい良い環境だなと思いました。僕もあんな環境で勉強してみたかったなぁ。でも色々ありすぎると、恵まれすぎて、選択肢を絞りきれないのかもしれないですね。絞らないとできないこともいっぱいありますから。


毎日発信し続けること。
いいものを見て目を養うこと。

これは、私たちものづくりをするにとっても同じことが言えます。クリエイターにとって大事な姿勢をサインズシュウさんより教えてもらうことができました。


サインズシュウ:
そろそろ乾きましたよ。

ーーー本当ですね。ありがとうございます!!

桂:いい仕上がりになりましたね。次の近畿浴場広告社の江田さんに仕上げてもらいにきましょう。

看板職人サインズシュウさんの元で、広告に命がふきこまれた瞬間に立ち会えて、一同大興奮でした。


現実に形を持った前田デザイン室の鏡広告。看板職人サインズシュウさんから手渡された広告がどのような過程を経て千鳥温泉に飾られるかは、第三回「浴場広告制作の大ベテラン 江田さん登場」にてお届けします。




お知らせ その1
千鳥温泉では、2022年4月からの鏡広告を募集されているようです。気になった方は、ぜひ!

お知らせ その2
前田デザイン室では、メンバーを募集しています。遊び心のあるものづくりに興味がある方は、こちらからお待ちしております。





テキスト: 小山絢子浜田綾
編集: 浅生秀明浜田綾
撮影: 前田高志
レタッチ: 只野千尋
バナーデザイン: 小野幸裕

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