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毎日が発見!『コッペくん』と共に進む、やじまけんじのマンガ冒険記

2020年4月19日。外出自粛の中、前田デザイン室の定例会はZOOMを用いたオンライン定例会でした。

今回のゲストは、4月20日からLINEマンガで連載が始まった『コッペくん』の作者、やじまけんじさん。この日は、連載の前日!お忙しい中貴重なお時間をいただきました。

やじまけんじ
マンガ家。エージェント会社コルク所属。SNSへの投稿をきっかけに読者を増やし、2019年8月に初刊行本『コッペくん』を発売。、2020年4月20日よりLINEマンガにて『コッペくん』を連載。その他の代表作は『猫のおふくちゃん』など。

前田デザイン室・室長の前田さんは『コッペくん』のリニューアルにデザインで関わっており、その縁もあり今回の対談が実現しました。デザインリニューアルについては前田さんがnoteに記しています

前田さんもデザイナーをしながら漫画家としてデビューを目指す、いわば同志。お互いの考え方や面白い漫画とは何かを、画面を通してではあるものの、穏やかな雰囲気の中お話いただきました。


「天才だと思ってました」 根拠のない自信が導いた漫画家への道

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前田:やじまさんがどんな人生を歩んできたか、から聞きたいです。

やじま:美大受験のために予備校に行く予定が、結局大変だからという理由で、美術専門学校にいきました。その時にはもう漫画を描きたいなぁとは思っていて。

前田:早い!

やじま:小学校の頃から描きたいと言ってたんですけどね(笑)。当時から父親は僕の描いた絵を見て「天才だ!」って言ってくれてて。

前田:めちゃくちゃいいお父さんですね!

やじま:ただ、僕は天才の言葉の意味を「何もしなくてもやれるだろう」って解釈でいたので、来るべき時がきたら自然と漫画家になると思ってました。それで、専門学校を卒業する時にそろそろ漫画家になるかと思って描いてみたら、あまり描けなくて。それから不毛なフリーター生活が10年ほど続きました。

まえだ:10年!不安になりません?僕はビビりだからきっと耐えられない。

やじま:そうですね(笑)。学校を卒業してから、今のクマの漫画を描きだす2年前ぐらいまでフリーターでした。10回以上仕事を変えて、最後の1年は書店員をやっていました。その間ちゃんと描いていれば漫画家になれたかもしれないけど、だらだら過ごしちゃって(笑)。

前田:それはどういう心境だったんですか?

やじま:その時は「自分は天才だ、才能がある」って考えてました。

前田:その間も信じてたんですね。

やじま:そうですね、努力っていう地道なことがあんまりできなくて。何もしていないのに、そろそろ漫画家になるかなぁ、なんて思ってました。

前田:でも漫画家って「自分は天才だ」って自信が絶対に必要だと思いますよ。コルクラボ漫画専科で講義を受けたとき、先生がめっちゃ優しくて、いいことばかり言ってくれるんですよ。なんでそんなに優しいか?聞いてみたら最後に種明かしをしてくれたんですね。「漫画家は根拠のない自信がないとやっていけない。辛いから。だからいいことしか絶対言わない。いいところだけを育てる」って言ってましたね。漫画の編集部では厳しいことを言われて、やめていく人が多いみたいで。だから、いいところを伸ばしていきたいし、褒められた気持ちを支えにして欲しいって。

やじま:確かに、あの先生はすごく優しいです。少しずつ自信になっていく。

前田:だからかわからないけど、同じ講義を受けた他の漫画家たちを見たら、自分の作った世界観に異常に惚れこんでるようみ見えました。すごいなと思う反面、僕は自分のキャラに名前を付けれないんですよ、恥ずかしくて。でも、そんなこと吹っ飛ばして、こういう名前なんだと言える強さが必要なんだと見ていて思いました。

やじま:確かにそうですね。

まえだ:フリーター10年って本当にすごいけど、その時間がコッペくんの作品に影響してるんじゃないですか?その10年って冒険じゃないですか。

やじま:普通、色々な仕事をしていたらもう少し波乱万丈でもいいはずが、なんか地味なんですよ、めちゃくちゃ頑張ったとか、死ぬほど辛い思いをしたとかでもなくて。

前田:そのゆったりした感じが、コッペくんぽいですよ。やじまさん自身が漫画に反映されている気がします。

やじま:そうかもしれないですね。決して無駄な時間では無かったんでしょうね。

その方面の努力

「その方面の努力」
より引用



佐渡島さんとの出会いで「本気」になった

前田:そこからどういうきっかけで、佐渡島庸平さんと、今所属しているエージェントコルクと繋がることになったんですか?

やじま:もともとnoteに4コマ漫画をあげていて、その時に今一緒に漫画を描いてるつのだふむさんのことを知ったんですね。ふむさんの投稿に佐渡島さんがコメントしていて、いいコメントだなぁと思ったんです。僕も見て欲しくて、漫画投稿サイトコミチに投稿したら、その頃はまだ投稿者も少なくて佐渡島さんがコメントをくれたんです。それから、少しずつ作品を見てもらえるようになりました。

前田:気付いたらって感じですか?

やじま:緩やかに繋がりましたね。他の漫画家さんは佐渡島さんから連絡があったというの聞くので、いいなぁと思います(笑)。才能を見込まれたみたいじゃないですか。でも僕はそうじゃないんですよ。

前田:やじまさんもコメントをもらえていたから、見込まれてたんですよ。そういえば、やじまさんと佐渡島さんは、よく言い合いになるって聞きます(笑)。

やじま:あぁ……(笑)。これまで佐渡島さんに散々言い返してきました。でも最近、僕が言い返していたことは空論だと気付いて。自論は置いといて、素直に一度受け止めてから自分で考えようと思うようになりました。

前田:感情的になることってあるんですか?

やじま:フィードバックで感情的になることはあまりないけど、姿勢について「本気でやってるの」とか言われると、自分の中の温度があがりますね。それも言い返してたけど、今思うと本気でやっていなかったなって思いますね(笑)。

前田:姿勢が本気じゃなかった?

やじま:姿勢というか、やってることが本気の行動じゃないなってことかな。頭では本気だと思ってたけど、行動とのずれがあったんですよね。色々と言ってもらえたおかげで、考え直して気付くことができました。

前田:佐渡島さんの編集ってどんな感じですか?いいところを伸ばす意図があるのかなと思っていて。印象に残っている言葉とかありますか?

やじま:一番最初に佐渡島さんがやっていたコルクブックス講座に出たとき「やじまくん、漫画には知ってることだけ書かなきゃだめだよ」って言われたことがすごく残ってるんです。漫画はフィクションなのに、どういうことだろうって。

前田:知識だけじゃなくて、体験したことを描けってことかもしれないですね。

やじま:感情的な体験とか、実際は経験していないけど共感できることでしょうね。

前田:僕は佐渡島さんに「毎日エピソードを書こう」ってよく言われるんです。体験してきたこと、感じたことをエピソード漫画として書いていくことで手掛かりになる、って。でも、前田さんをエピソード漫画家にしたいわけじゃないって言うんですよね。どういうことか考えてみたけど、普通の漫画家は経験していないこと、任天堂時代とかサラリーマンだった時のことを、抽象化して、転用して、物語を生み出して欲しいって言ってくれたのだと思っていて。そのままエピソードを使うんじゃなくて、違う形に置き換えて漫画にするのがいい、って僕は捉えました。「知ってることしか書かなきゃだめだよ」っていうのも、そういうことかもしれませんね。

やじま:そうですね。でも、前田さんの会社員時代の体験をもとにして、少年漫画を描いたらめっちゃ面白そうですね。

前田:サラリーマン生活15年が少年漫画に変わるっていう。僕のリアルから生まれた、僕にしか描けない漫画ですよね。『ドラゴンボール』(鳥山明・集英社)も全部リアルでできてる、って言われてますもんね。

やじま:そうですね。読者からのファンレターが元気玉なんじゃないかとか、鳥山明さん自身の気持ちを漫画にしているって言われてますもんね。


コッペくんは変わるけど変わらない。

前田:コルクインディーズから発売したコッペくんは、僕の会社で装丁を担当しました。

そこから現在のコッペくんに到るまで、デザインだけではなく物語も変わりましたよね。びっくりしました。

やじま:そうなんです。前田さんに装丁デザインしてもらったときは、本屋さんで働きながら、色々な動物と交流して物語が進む感じでした。


前田さん:そうそう、そこからだとすごい変わりましたよね。

やじま:元のネームを外部の人に見てもらったら「小難しい」って感想が多くて。つまらないと面白いはどう違うか考えていたらそんな状態になっていたんです。どうにかしたいと思っていた時に『君たちはどう生きるか』の漫画を描いた羽賀翔一さんが今の連載用の第1話のネームを描いてくれたんです。そのネームを元に物語を積み上げていったので、以前とは違う形になりました。ただ、舞台にしていた本屋さんも今の話の中に出てくるので全然別物というわけではないんですけどね。今はもう、前田さんにデザインしてもらったコッペくんがスタンダードになってます。

前田:それ聞いてめっちゃ安心しました。前のコッペくんは僕もいいと思っていたからこそ、反発があってもおかしくないと思っていました。実際「前のコッペ君はもうみられないの?」って声も見かけましたしね。

やじま:ありましたね。前田さんがそのツイートに「いいね」してたの見ました(笑)。

前田:そうそう、やじまさんが「あのコッペくんも生きてて、これからのコッペくんもいる」って説明をしていて、なるほど、いいなぁと思いました。

やじま:前のコッペくんが進化して今のコッペくんになったわけではないので、前の世界はそのまま存在している気がするんです。前のコッペ君は物語を読む中で、みんなが愛着を持ってくれてたと思うんです。だから今の新しいコッペ君も、これから物語と一緒に読んでくれたら可愛いと感じてくれると信じてます。

前田:感じると思います。今回は毎回展開があってストーリー性がありますよね。前のはオムニバスみたいだった。

やじま:そうですね。前は仕事ではなく勝手にTwitterにあげていたので、編集もない読み切りの4ページで書いてました。

前田:前のコッペくんの本は今も買えるんですよね?

やじま:買えます!コルクのECサイトとかで買えますね。


デザインが気付かせてくれたコッペくんの魅力

前田:リニューアルしたコッペくんには、キャラデザインの他にロゴにも監修として関わらせてもらいました。

やじま:ロゴもめちゃくちゃ可愛かったです。

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前田:任天堂にいた時からコンテンツに対してよくロゴを入れるんですよ。よく「ロゴ立ち」って言い方をしていたんですけど。

やじま:キャラ立ちみたいな?

前田:そんな感じ。キャラの主張に負けないロゴにする。ただキャラと同じくらい主張をするとロゴがうるさくなるから、ロゴはロゴとしての主張をした方がいいんですよ。コルクのデザイナーの小林さんは、こっぺくんの「ぺ」のまる(半濁点)の部分にコッペくんのシルエットが入るようにしてうまく形にしてくれました。

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やじま:そっかぁ、ロゴ立ちって面白いですね。

前田:「ロゴらしさ」みたいな。イラストがあってそれよりレイヤーとしては上にくるロゴじゃないといけない、ってアドバイスはしましたね。同じレイヤーにあるとロゴが埋もれてしまうし、同じ軸よりちょっと前にあるほうが奥行きが出る。今回のコッペくんは前より主張が強くなりましたからね。

やじま:前のコッペくんは今よりキャラクター自身がシンプルだから、ロゴもシンプルになるんですね。

前田:コッペくんのリニューアルについて話した時に、やじまさんから「知りたがり」っていう単語がでたときに、僕の中ですっきりしたんですよ。

やじま:僕も、これだ!って思いました。

前田:作品の核に触れる部分を編集の立場ではない僕が考えていいのかなってて躊躇してたんです。ただ定義つけないとデザインできないなって思って。最初はヒアリングせずに細かいデザインの調整だけしていたけど、『くまモン』みたいにって言われたときに、ちゃんとヒアリングしないとって思ったんですね。そこから、「コッペくんは知りたがっている」ということに落ち着いた。これは2019年の僕の中でベストワークで、本当に会心の一撃でした。今もキャラクターの「知りたがり」の部分は残ってるんですか?

やじま:今のコッペくんは具体的に言ってはいないですけど、「冒険を探す」って「好奇心」なので、核に「知りたがり」はありますね。それも、デザインの視点も含めて考えて気付けたおかげですね。だからちゃんと核として残せているんだと思います。


コッペくんが伝えたいもの。

やじま:コッペくんは、動物しか住んでいない小さい島の中のお話。

コッペくんのお父さんが島の外に旅立つ間、お互いに日記を書いて、帰ってきたらその日記を見せあおうってお父さんと約束するんです。コッペくんは、日記に面白いことを書きたい思いで、ワニのロコ君と一緒に、すごいことがあるわけじゃない島の中でいろんな冒険をして遊びまわるっていう、ほのぼのとしたアドベンチャー漫画です。

その中に「日常の中に面白いことを見つけよう」というメッセージも少し伝えられたら良いなと思っていて。

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前田:この間、YouTubeで佐渡島さんと箕輪厚介さんが対談してて「大人になっていかに遊び方を見つけるかが大事」って言ってましたね。

やじま:そうですね。直接言うことはないけど、うっすらと感じてもらえたらいいなって。

前田:まさに。僕、あらゆるコンテンツの中で『バック・トゥ・ザ・フューチャー』(ロバート・ゼメキス)が一番好きなんですよ。自分で未来をつくっていくことを説教臭くなく伝えてくれるのが、すごい面白いと思うんです。説教臭くないっていうのがいいですよね。楽しめるけど、隠れたメッセージがある。

やじま:普通に読んでいる間は楽しんでもらって、ふとした瞬間にコッペくんはどうするかな?とか、考えてくれたらうれしいですよね。

前田:コッペくん思考みたいなビジネス書が出たらいいよね。

やじま:最高ですね(笑)。

前田:漫画やゲームから学べることってたくさんあると思うんですよ。僕は『風来のシレン』(チュンソフト)から学んだことが多い。あのゲーム、敵に倒されると本当に初めからやり直さないといけないんですよね。将棋みたいにこちらが1回動いたら敵も1回動くシステムで、プレイヤースキルが重要になってくる。状況判断が常に問われてて、倒される度に学んで考えて変化をしていかないといけない。要は状況判断育成ゲームだな、と思ったんですよね。

やじま:作品に触れた経験が、その人にとって大事な要素に変わることもありますよね。物語の中でコッペくんと一緒に冒険をしながら、読んでくれた人が何かに気付けるような、その人の中に何かが残るように、これから描いていきたいと思います。

僕は、ファンの人たちに読んでもらいたいが、そのためにはそれに加えて、自分も読みたくなるものを描くことが大事だと思った。
やじまさんのnote「読みたい物語」より引用


LINEマンガでの連載は毎週月曜日に更新です。ぜひ1週間の始まりを可愛いコッペくんと一緒に迎えてください。

やじまさん
連載前日の大変お忙しい中、貴重なお話をありがとうございました!



文:Swimmy
編集:大久保 忠尚

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元・任天堂デザイナー前田高志が率いるクリエイティブ集団、前田デザイン室の公式noteです。 「おもろ!たのし!いいな!」をモットーに、世の中に新しいクリエイティブを大量投下し続けます。 https://camp-fire.jp/projects/view/66627

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