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バーチャルでも、「家らしさ」にこだわった理由

オンラインコミュニティ・前田デザイン室(通称:前デ)では、現状に悩みや不満を持つメンバーがそれぞれのモヤモヤから「ぬけだす」ことを目的とした社会実験的プロジェクトを行っています。

プロジェクト名は「ぬけだ荘」。

モヤモヤを抱えたメンバーがバーチャルアパートメント「ぬけだ荘」の仮想住民となり、互いの現状や取り組みを曝け出しながら、一歩一歩、「ぬけだし(=目的達成)」に近づいていく。そのプロセスをドキュメンタリーに追う企画です。

今日は、前回に続き「ぬけだ荘プロジェクト歴史編 〜中期〜」をお届け。

チャットツール、ディスコード(Discord)に設けられた「個人部屋システム」ってなんだろう? マスコットキャラ「たぬきち」はどうやって生まれたの? 1年間進めてきたプロジェクトのうち、開始後およそ半年以降のお話を深掘っていきます。

みずのん ぬけだ荘504号室
プロデューサー。ゲーム会社勤務。「本当にぬけだしたいもの」と向き合い、ぬけだしまであと少し!
まさみん ぬけだ荘608号室
やりきらないから抜け出したい事務員がぬけだ荘での活動を経てやりたい事に出会う。アラフォーにして17年勤めた会社から初めて転職を決める。
まき ぬけだ荘503号室
機械メーカー勤務の会社員。なにもない自分からぬけだすため、いろんな事に挑戦中!!
HAL*(はる) ぬけだ荘102号室
デザイナー。「空っぽな自分からぬけだしたい!」ITベンチャーで働きながらハンドメイド作家、hal*bakoとして創作活動中。中身のある自分になるまで前進あるのみ!
はやぶさ ぬけだ荘402号室(プロジェクトマネージャー)
Webアプリ、広告デザインを得意とする株式会社setのWebディレクター。2020年3月から前田デザイン室に参加。2020年4月に現在の会社に転職してから悩んでいたディレクターとして未熟な自分からぬけだすためにぬけだ荘プロジェクトに参加。その後、プロジェクトマネージャー、Webサイト制作のディレクターなど獅子奮迅の活躍をしている。

こだわりの「個人部屋」システム

プロジェクトにおける進行管理や全体のコミュニケーションは、チャットツール「ディスコード」を使って行われてきました。

ディスコード内では、一人ひとりの住人(メンバー)に専用のトークルームを作成。アパートの「部屋」に見立てられ、約60名のメンバー全員に割り当てました。

メンバーが頭の中のモヤモヤを言語化したり、活動記録をまとめたりと、さまざまに活用されてきた個人部屋。すべての部屋を誰でも閲覧可能だったため、悩みや現状を「さらけ出す」機能も果たしてきました。

——ぬけだ荘の「個人部屋」システムは、チャットツールとしてちょっと独特な使い方だと思いますが、どんな経緯から生まれたのでしょうか?

はやぶさ これはアパートをイメージして作った機能ですね。

当時は「バーチャルシェアハウス」って言ってたんですけど、ぬけだ荘って要するにアパートなので、メンバーが住みついて共同生活するようなプロジェクトにしたくて。

せっかく全員がコミュニケーションを取れる場があるなら、部屋を割り当てるアパートのようなデザインにできたらいいねと。そんな話から2020年の12月末くらいに、「部屋」システムが生まれたんです。

バーチャルとはいえ、イメージは重要なので外観もちゃんと考えました。

当初は「家っぽいから平屋にしよう」という意見が多かったので、WEBサイトのイラストは平屋になりました。

「ぬけだ荘」のイラスト

ただ、ディスコード内に全員分の部屋を割り振ってみると、1フロア9人で7階立てという、まあまあの高層マンションになっていましたね(笑)。

——ディスコード内に部屋を設けたのは、コンセプトにこだわった結果だったんですね。

はやぶさ そう。最初は単純に「あなたは101です、あなたは102です」みたいな番号の割り当てでしかなかった。でも、それだと単純にメンバーを並べてるだけで、グループ感もないし、盛り上がりにも欠ける。

でも、ぬけだ荘はメンバーが悩みや目標をさらけ出しながら切磋琢磨してぬけだす集団です。そのイメージを形にできないかと考えて、ディスコード内にも「家らしさ」を持たせたんです。

まきちゃん、最初どう思った?

まき 個人部屋、いいと思ったよ。私の隣の部屋がみずのん先輩なんだけど、「お隣さんチェックしちゃおっ」みたいな感じでよく覗いてた(笑)。

そしたら日々の進捗とかいろんなこと書いてるから、「あ、先輩もがんばってる。私も自己分析しなきゃ」って刺激がもらえるんだよね。そうやってみんなの行動を見て、「自分も頑張らないと」って思えるのが、お部屋のいいところだよね。

ねえ、みんなどう?(笑)

HAL* すごくわかる。あと、誰かの部屋を覗きにいくとき、みんなノックするみたいに「コンコン」って書いてて。自分の部屋にも「コンコン」ってコメントあったとき、すごく嬉しかった。「あっ、こんにちは〜」「おじゃましま〜す」みたいな。

私自身はあまり書き込みはしなかったから、たまに見ると「コンコン」でいっぱいになってたけど(笑)。「遊びにきてくれたんや」って、ちょっと嬉しくなったよね。

まさみん うんうん。ぬけだ荘って、新しいものが生まれては、古いものがアーカイブされていくのを繰り返していて、どんどん使いやすくなってる。

とくに個人部屋ができた時に、住人のみなさんの抜け出し活動の「可視化」がすごく進んだと思う。「あ、この人がこんな活動をしてたんだ」とか。

Twitterでもつぶやけるけど、前デ以外の人にも発信することになるし、共有できる範囲もちょうどいい場所だったよね。

——個人部屋で、お互いに刺激を与え合っていたんですね。

はやぶさ あと補足しておくと、この個人部屋って、そもそもディスコードから始まったものじゃないんですよ。じつはプロジェクト開始当初からあった概念なんです。

WEBサイトを見ると、みなさんの名前の横に部屋番号が書いてあるでしょ。

▲ぬけだ荘WEBサイトのトップページにある「住人名簿」

たとえば、はるさんは103号室だし、ぼくは402号室。つまり、ディスコード関係なく、プロジェクト開始当初から、みんながそれぞれの部屋に紐づいているんです。

みずのん なるほど。たしかに「部屋」といったらディスコードのチャンネルしかイメージしてなかったですけど、そもそも私たちは「ぬけだ荘の住人」だもんね。

はやぶさ そう。だけど、単純にWEBサイト上で部屋番号を割り振ってるだけじゃなくて、もっとみんなで意識付けできたらいいなと始めたのが、ディスコードの個人部屋。ここは忘れないでくださいね。

バーチャルにも「家らしさ」

——コンセプトにこだわってきたことで、今のプロジェクトがあるんですね。

まさみん プロジェクトマネジメントをしてくれていた、まいまいも、はやぶさくんも、運営のメンバーも、「どうすればみんなが活動しやすくなるか」をいつも考えてくれていたなと思う。

今メンバーの中に起きてることをよく察知してくれていて、企画も部屋もブラッシュアップされて、「相談室」ができたり、「ぬけだ荘新聞」がリレー形式になったりした。

はやぶさ プロマネとして動く中で、メンバーの状況が見えてないって思ったんですよね。それはこのプロジェクトにおいては、とくに良くないことですよね。

だから、よりみんなの状況が見える仕組みを作りたくて、「みんなが話せる場所」として相談室を作りました。要するに、ぼくがみんなのことを知りたかったんですよね。

それを僕だけで回すと負担になるからと、まさみんが一緒に回してくれることになって、だんだん住人として参加した方も一緒に運営するようになっていった。

個人部屋を作ったのもちょうど同時期で、どちらにも同じような意図はありましたね。

——ディスコードには全体共有や担当別など、発信用途に応じていろいろなチャンネルがありますが、どれも「家」や「共同生活」をイメージさせるチャンネル名になっていますよね。

はやぶさ これも、ぬけだ荘というバーチャルシェアハウスのコンセプトに沿うイメージにするためです。要するに、トンマナを合わせてます。

たとえば、MTGのデータや議事録など保存しておきたいデータを格納しておくチャンネルは「収納タンス」です。単純に、収納する場所だからタンス。

もう一つ挙げると、あるとき、「誰でも気軽にコミュニケーションを取れるスペースが欲しい」という声があって。

家になぞらえると縁側みたいな場所だなと思って、「なんでも話せる縁側」というチャンネルにしました。ここはとくに好きです。

名前のこだわりは、まだWEBサイトを制作していた当時、デザインチームのリーダーだったYUCCAさんと決めたことです。

バーチャルでも「家らしさ」をなくさないためにどんな表現が適切かを、いつも考えるように心掛けているんです。

HAL* こういう場を作ってくれたのは、すごくよかったですよね。何かあったときに、「あ、ぬけだ荘に書き込もうかな」と思えて、みんなが帰れる場所になってて。

使うか使わへんかは場合によるけど、そこに「ある」っていうだけで、安心感というか拠り所になってたなあ。

マスコットキャラ「たぬきち」誕生の理由

——ところで、前から気になっていたんですが、ぬけだ荘のサイトに行くと、狸のキャラクターが出迎えてくれます。ぬけだ荘プロジェクトのマスコットを「たぬき」にした理由は?

はやぶさ ああ、これぼくは知ってます。みなさん、「たぬきち」が誕生した理由、知ってますか?

みずのん なんだろう。プロジェクトの管理人さんが葉っぱを頭に乗せてたとか。

はやぶさ うーん、惜しいですね。

HAL* たしか、狸がドロンと「化ける」イメージからきてますよね。ぬけだ荘は、「〇〇からぬけだしたい」と願望を持つ人たちが「変化」を追求するプロジェクトなので「化けるといったら、たぬきだ!」みたいな。

はやぶさ お、正解です。HAL*さんを呼んだ甲斐がありました。

ぬけだ荘のマスコットキャラクター「たぬきち」

——「なりたい姿に化ける」意味で、たぬきとかけて「たぬきち」が生まれたんですね。ネーミングはどうやって決まったのでしょう?

みずのん Twitterで名前募集とかやりましたよね?

はやぶさ そうそう。前田デザイン室はクリエイター集団なので、誰かのアイデアがいつの間にか具現化されてることが多いんですよね(笑)。

そもそもマスコットキャラクターを作る予定はなかったんですよ。

何気ない会話の中で、「変化→化ける→たぬき」と変換されて「たぬき」のキーワードが出てきた。それをデザイナーのYUCCAさんがビジュアル化してくれました。

そこで、オーナーの前田さんがTwitterで名前を募集をしたんです。

バーっと一気に大勢の人からアイデアが集まったんですが、なかなかピンとくるものがなくて。結局、応募されたアイデアはまったく反映されず、会話の中でなんとなく決まったのが「たぬきち」なんです。

まき 私の「ぽん太」も採用されなかった。

はやぶさ え、応募してたの?

まき うん。

「夢・願望100リスト」

——プロジェクトの中で、「夢・願望100リスト」という企画があったそうですね。どんな企画だったのでしょう?

はやぶさ ありましたね。文字通り、やりたいことを100個書き出そうという企画です。オンラインで集まりワークタイムを設けて、複数回に分けて書き込んでいきました。

——どんな経緯で始まったんですか?

はやぶさ これ、まきちゃんわかる?

まき なんか、本を参考にしたやつだよね。あれすごく良い本だった。

はやぶさ その「すごく良い本」の名前を教えてください。

まき え〜、なんだっけ。小さな文庫本の小説で。おじいちゃんが出てくるの。私、最後にすごく泣いたの。みんな読んでなかったら読んでほしい!

はやぶさ うん、これですね。

まき あ、それ!

まき それそれ! 『ザ・コーチ』

はやぶさ 「ぬけだ荘」に入ってる人、わりと必読って言われてた本ですよね。読んだ?

——いや、ちょっと初めて聞きましたね。

はやぶさ まじか。......まじか。(だいぶ凹む)

みずのん ちょっとビジネス書っぽくも見えるけど、まきちゃん、この本で泣いたの?

まき そう、泣ける。読んでほしい!

はやぶさ 泣ける......まあ、そうですね。プロジェクト初期の頃にこの本をおすすめしてくれた方がいて、みんなで読もうとなったんですよね。

「夢・目標・目的・ゴール・ビジョン」の5つを自分の中に明確に掲げることで、理想とする道を着実に進んでいけるという話が書かれているんですけど、この中に「ドリーム100リスト」っていうのが出てくるんです。

そこでオーナーの前田さんから提案で、自分たちで「ぬけだし目標」も掲げてるけど、自分が「何がしたいのか」をより明確に整理するためも、やりたいことを100個出してみようということになりました。

——実際、やりたいことを100個挙げてみてどうでしたか?

みずのん やっぱり、やりたいことが頭の中にあるだけの状態よりも、目に見える方が気づきが多いですよね。

特に、HAL*ちゃんが自分で工夫してカテゴリ分けしていて、「あ、これいいなあ!」って思いました。

HAL* 100個も出してみると、自分の本当にやりたいことがいくつかのカテゴリーで分かれてるなあって思って。私の場合、仕事、プライベート、趣味、健康面、人生における目標とか。

最初は本当にザッと書き出してみて、後で並び替えたんですけど、カテゴリで分けると「自分ってこういう人間なんだ」とか「本当はこんなことがしたいんだ」っていうことがちょっとずつ見えてきて。

はやぶさ おもしろいよね。

HAL* 最初は、100個出すなんて簡単かなって思ったんですけど、意外と出ないんですよ。

私も一気に60個くらい出せたところで急に止まっちゃって。「え、私の人生まだ何十年もあるのに、たった100個も出えへんってなんなん?」みたいな(笑)。

もうとにかく自分の過去から振り返ったり、角度変えたり、いろいろやって、なんとか無理矢理で出し切れて。

「すぐにやりたいこと」もあれば、「いつかはやりたいけど、今じゃない」みたいなのもあって。すごく気づきが多かったなって思います。

はやぶさ すごい。「サバゲーしたい」とかも書いてある。

HAL* そうそう(笑)。今すりゃええやんっていう(笑)。

——へえ、すごい。深く自分を考える機会になったんですね。

はやぶさ まあ、このプロジェクト自体が社会実験なので、いろいろやってきましたね。「社会実験」って言っちゃえば、なんでもOKみたいな感じもあるけど。

まさしく、良いトライアンドエラーを繰り返してきたプロジェクトだったなって思います。

*   *   *

こうして、個人がモヤモヤからぬけだすこと目的として活動してきた「ぬけだ荘」プロジェクトも、10/31をもって無事に終了。

社会実験として開始し、運営もメンバーも全く先の見えない、常に暗中模索な状態でした。ただ、ここに飛び込んで参加したメンバーは、それぞれに「次」への感触をつかみ、また個々に新たな「ぬけだし」を開始しています。

「新しく何かを始めたい!」という方も、「何をしたらいいかわからない」という方も、環境の一部を変えることで、何かが動き出すかもしれません。

前田デザイン室では、「仕事ではできないクリエイティブ」に、誰もがありのまま挑戦できます。

ぜひ一度、覗きにきてみてください。

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インタビュー:うえしん
ライティング:金藤良秀
編集:ぐんぐん
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