カズさん2

「提案はタダ。運が降ってくるような甘い世の中じゃない」前田デザイン室定例会にディズニー公認アーティスト、カズ・オオモリ登場

4月27日、前田デザイン室の定例会が開催されました。 4月定例会のゲストは、世界を股に掛けて活躍するグラフィックアーティストのカズ・オオモリさん。

その定例会の様子をレポートします。


ガズ・オオモリさん(以下カズさん)

1967生まれ大阪在住。奈良芸術短期大学デザインコース卒業。大学卒業後は、イラスト・スタジオに入社。その後、アメリカのミネアポリス・カレッジ・オブ・アート・アンド・デザインで約4年間学び、広告制作会社の社内イラストレーターの経験を経て帰国。大阪在住でありながら、『ベイマックス』『スターウォーズ/フォースの覚醒』『レディ・プレイヤー1』『アベンジャーズ/インフィニティ・ウォー』等、ウォルト・ディズニー・アニメーション・スタジオやマーベル・スタジオの作品を手掛ける。世界中でわずか30人程度しかいないディズニー公認アーティストの1人。

カズさんは、大阪芸術大学の客員教授です。前田さんも大阪芸大の講師を務めていることから知り合ったのだとか。前田さんが勇気を出してカズさんにオファーしたことがきっかけで、今回の定例会ゲストに来ていただくことが実現しました。


「オオモリ君の絵のスタイルは?」の言葉からチャンネルを切り替えた

カズさんは、大学を卒業してから、会社勤めをしていました。広告のイラストが中心で厳しくも楽しい仕事が多かったそうです。

一方で東京の有名なイラストレーターのサンプルを持ってきて、その絵を真似て一部を改変するイラストをオーダーされる仕事もあったのだとか。

カズさん:「権利的にもどうなのと思うし、辛かった。」

とのこと。

あるとき、取引先で出会ったプロデューサーに「オオモリくんは、僕の頭のイメージを完全に再現してくれてすごい。でもオオモリ君個人の絵のスタイルって何なの?」と聞かれ、

カズさん:「僕は注文通りには絵が描けるけど、僕の絵のスタイルはないことに気が付いた。」

そこからチャンネルを切り替えたとのこと。

もともとアメリカのエンターテインメントが好きだったので、好きな舞台で思いっきり挑戦するために会社を辞めたのだそうです。



提案はタダ。運が降ってくるような甘い世の中じゃない!

23歳でアメリカへ。日本のポートフォリオを持って仕事の獲得に励むものの、最初は全く仕事に繋がらなかったとのこと。

そこで、現地の芸大に入って先生と知り合いになり毎日先生に作品を見せては意見をもらっていたのだそうです。するとあるとき先生が「うちで仕事しない?」と声をかけてくれて、日雇いの仕事に繋がったのだそう。

映画のポスター制作をやるようになったのは、40歳をすぎてからなのだそうです。(ちなみにカズさんは現在53歳、見えない!)

カズ:「やりたい仕事ができるようにするためにとにかくアプローチしまくった。インターネットに作品をアップしたら運が降ってくるような甘い世の中じゃない。勝手にプレゼンしまくりました。提案はタダだからね。」

とのこと。

自主提案で仕事に繋げるスタイルは、前田さんの仕事のスタイルとも通づるところがあるようです。



映画本編を見ずにポスターを作るために「めっちゃ検索します(笑)」

映画のポスターのプロモーションのイラストを描くお仕事をたくさんされているカズさん。そのコツについて前田さんからの質問。

前田さん:ディズニーの映画のポスターを描く時って、お題やキーワードをもらえるんですか?

カズさん:いや、それがそうでもないんですよ。予告編までは見れますけどね。つまりそれって一般のお客さんと知ってる情報は変わらないですよね(笑)。その状態で作ります。

例えばヒーローものは新作になるとコスチュームが変わるんですよね。でも僕は情報を持ってないんですが、イラストを描かないといけないわけで。「なんでわかるねん」ってなるでしょう?答えは以外にもシンプルで、インターネットでめっちゃ検索しています。

(会場笑)

カズさん:こういうのも勘がよくなるんですよ。僕がヒントにするのはフィギュアかな。おもちゃって生産に時間がかかるから、その辺を調べるとリークしてくれる人がいるんですよね(笑)。

前田さん:おもちゃの会社には、資料が来るのにプロモーション側には来ないんですね。

カズさん:そうなんです。それでデザインを考えるんです。だからもう最近は予告編を見れば、ストーリー展開がある程度読めますよ。中身の答え合わせは自腹で映画館に行って初めてわかる感じです(笑)。


アメリカと日本のマーケティングの差

同じ映画でも、アメリカと日本ではマーケティングが全く違うという話もありました。

例えば映画『モアナ』。日本と北米版の予告動画の両方を見せてくれました。日本編はゆったり優しい雰囲気、一方で北米編はアクション要素が強くスリリングです。

ポスターを見ても違いは歴然。(左が北米版、右が日本版)

前田:とても同じ映画と思えない。北米は幼稚なものを嫌いますよね。ピンク色はやめてと言われたことがあります。

前田さんも任天堂というグローバル企業でデザインしていた経験から、こう語ります。

北米の人の好みやツボにどうやって合わせているのか?という質問に対しては、


カズさん:北米にいた6,7年の間にわかったこともある。それからもともとアメリカのエンタメが好きなんです。スピルバーグの映画を見て育ったのでアメリカの文化が染み付いている。

のだそうです。


ビーカーワークス=検証、を繰り返す

カズさんが絵を描く上で大事にしていることの一つが「ビーカーワークス(検証)」。

カズ:頼まれもしないんだけど、イラストを描くときはとにかく無数のビーカーワークスを繰り返しています。検証、実験みたいなことかな。さっきのモアナの絵も髪の毛、肌の色、背景の色、タイトルの位置無数にパターンがあり全て検証します。

カズさん:それからイラストはライティング、光の当たり具合が大事です。だから同じポーズで写真を撮ってそれを元にイラストを描くこともあります。もらった資料だけじゃわからないからね。そうやって自分で情報を得て検証を繰り返すことを大事にしています。

前田さん:僕もデザインをする上で検証を大事にしているからすごくわかります。ただ「ビーカーワークス」って言葉かっこいいから今日から僕も使います(笑)。



気になるギャラは?

これだけ大きなお仕事をされていると気になるのがギャラの話。やんわり前田さんが切り込みます。

具体的な金額は明言しなかったものの、スケールの大きな話に会場からはどよめきの声が上がりました。



最後は、カズさんの貴重な原画を見せていただきました。

食い入るように見入る前田デザイン室メンバー達。


肌寒い1日でしたが、会場は熱気に包まれた熱い定例会となりました。カズさん、貴重なお話を聞かせていただき、ありがとうございました。


レポートだけで書ききれない内容は、前田デザイン室内で配信されている映像をご覧ください。前田デザイン室はこちらから。現在増枠はしておりませんが、月初に退会した方の分の枠が若干開く可能性があります。

今回は「#やわラボ」のみなさまのおかげで、高画質な配信を提供していただきました。



テキスト:浜田 綾
写真:吉田 哲也吉田 早耶香
バナー:ツチダ マミ



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