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#負けたエピソードインタビュー|眼鏡店の販売員が知識ゼロで起業。僕の人生を変えたおじさんと、デザインの概念を変えた前田さん

前田デザイン室では2022年のはじめ、クラウドファンディングを通じて『負けるデザイン』という小説を書籍化しました。

デザイナーたちのリアルな「負けエピソード」が詰まった小説のリターン企画として、自身の「負けエピソード」のインタビュー希望者を募ったところ、多数の応募者が……!

今回は、そんなリターンに応募してくれた菅野久志さんの負けエピソードをお届けしたいと思います。

東京都文京区根津にデザイン事務所「A4屋」を構える菅野さん。眼鏡店の販売員をしていた彼が、知識・経験ゼロでデザイン事務所を立ち上げたきっかけは「知らないおじさんの一言」でした。

<聞き手=だんちゃん>

デザイン事務所A4屋代表 菅野久志さん


誰もやっていないことがしたかった「コピー用紙マニア」時代

だんちゃん:1年ほど前にデザイン事務所を立ち上げたとのことですが、それ以前からデザインに興味があったのでしょうか?

菅野さん:デザインという意識はなかったんですが、ものづくりは好きでしたね。眼鏡店の販売員として働きながら、駅構内に貼ってあるチラシやポスターをA4のコピー用紙を使ってアレンジして、アート作品をつくっていました。 

3ヶ月に一度くらいはイベントにも出展していたんです。その中でもよく参加していたのが「マニアフェスタ」という、いろいろなジャンルのマニアが集まるイベント。僕は “コピー用紙マニア” として参加していました。

マニアフェスタに出展した作品

だんちゃん:紙を使うにしてもいろいろと種類がある中で、なぜコピー用紙を使った創作活動をはじめたのでしょうか?

菅野さん:誰でも簡単に手に入れられるもので、どこまでインパクトのある作品が作れるのか挑戦してみたかったんです。そう思うきっかけになったのは「誰もやっていないことをやってみたい」という想いでした。

今はデジタルで簡単に、新しいものがどんどん生まれる時代ですよね。だからあえて時代に逆行したアナログにこだわったものづくりがしたくて、A4のコピー用紙を作品のベースに選びました。このころから「A4屋」という名前を使っています。

だんちゃん:駅のチラシやポスターを、作品のテーマにしたのは何故ですか?

菅野さん:できるだけ身近なものでインパクトを与えたかったので、誰でも一度は目にしたことがあるものをテーマにしたかったんです。あとは僕が当時、パソコンに疎かったのもありますね。事務所を始めるまでAdobeの存在も知らなかったし、Illustratorって聞いても職業のイラストレーターしか思い浮かばないくらい、本当に何も知りませんでした。

できることが限られているなかでいろいろと試行錯誤した結果、文字と記号だけで表現できる駅の広告に辿り着きました。でも、そのおかげで矢印の魅力にも気付けたんです。

オンライン取材中の菅野さん

だんちゃん:矢印の魅力について考えたことがありませんでした!どういったところに惹かれたんでしょうか?

菅野さん:矢印はたった3本の棒で描けるのに、見ればすぐに「こっちに行けばいいんだな」ってわかりますよね。しかも言葉がなくても伝わる、世界共通のデザインなんですよ。他に同じようなものって僕には思いつかなくて。そのことに気づいた瞬間に、すごく感動したんです。それからは、“矢印マニア” でもありますね。

デザインを始めたきっかけは、知らないおじさんの一言

だんちゃん:創作活動をするなかで、デザインの仕事に興味を持っていったんでしょうか?

菅野さん:デザインの仕事に興味を持ったというか、人生の転機になったのは知らないおじさんの一言ですね。今から2年ほど前、マニアフェスタに出店していたときに一般客のおじさんが僕のブースに来てくれたんです。

初めて見るお客さんだったので声をかけて作品の説明をしていたら、その人に突然「これって誰でもつくれるよね」と言われて。言われた瞬間は「なんだこの人」って、ちょっとイラッとしました。でも、落ち着いて考えるとたしかにそうだなと自分でも納得してしまって……。

だんちゃん:誰もやっていないことがしたくて創作活動を始めたのに、それはショックですね……。

菅野さん:そうなんです。指摘されたこと以上に、気付けていなかった自分自身にすごくショックを受けましたね。オリジナリティーに欠けていたというか……。このとき「あ、負けた」って思いました。これじゃダメなんだって、思い知らされた感じです。

だんちゃん:それからはどんな行動をされたんですか?

菅野さん:僕は一度悩み始めると結構引きずってしまって、行動できなくなってしまうタイプなので、あまり悩まずにこの状況をプラスに持っていこうと思いました。

クリエイターにとって作品は自分自身なので、否定されたらすごく落ち込んで、立ち止まってひたすら悩んだり考えたりする方も多いと思うんです。でも僕は「とにかく動いて前に進むしかない、止まったらそこで終わる」と考えて、誰にも作れないA4屋のクリエイティブについて模索し続けました。その過程で出会ったのが、前田高志さんだったんです。

だんちゃん:ここでデザインに繋がってくるんですね!

菅野さん:僕はもともと、ダウンタウンの松本人志さんがきっかけでものづくりをはじめたんです。松本さんの一言で観ている人たちの感情が動かされているのを見ていて「自分もこんなインパクトを人に与えたい」と思ったんです。

僕も人前で面白いことを言えればよかったんですが向いていないので、ものづくりで表現することにしました。そんな松本さんが大好きなのが任天堂なんです。

「僕のものづくりの原点である松本さんに関するものを深掘りすれば、何か見つかるかもしれない」と思って任天堂についていろいろ調べていくなかで、1年ほど前に前田さんの存在を知りました。

前田さんの著書『勝てるデザイン』

だんちゃん:前田さんを知って、どんな印象を受けましたか?

菅野さん:それまで僕の中のデザイナー像って、気難しいイメージだったんですよ。でも前田さんは、いい意味で僕のイメージとは違っていました。

最近だと粗ドットも話題になりましたけど「なんだか面白そうなことをやっている人だな」と感じて、前田さんについて調べるようになったんです。NASUメディアや前田さんのnoteで発信される内容も濃くて、勉強になるものばかりでした。

だんちゃん:前田さんの活動から、クリエイターとしての学びや刺激をもらえたんですね!

菅野さん:ロゴのつくり方や提案の仕方なども細かく公開されていて、「こういうアプローチがあるんだ!」って衝撃を受けました。前田さんを知って、ものづくりの概念、デザインの概念が一新されたんです。

前田さんがSNSなどでよくおっしゃっている「そうなるように仕向ける」という考え方にも共感しました。世の中の大体のことはデザインで解決できると気付けた瞬間、「ここから巻き返せる、勝てる!」と思えたんです。

誰でもプライベートや仕事でいろいろな悩みがあると思うんですけど、どんなことでもデザインで構築して、狙いどおりになるように仕向ければ、うまくいくって信じています。こういう発想ができるようになったのは間違いなく前田さんのおかげですね。

考えるのは後からできる!とにかく動く!


だんちゃん:そこから本格的にデザインの勉強を始めたんですか?

菅野さん:いえ、勉強する前に事務所を借りてデザイン会社を始めちゃったんです。経験も知識もまったくない状態で一から勉強をはじめても、すぐ挫折するだろうと思ったんですよね。だから仕事も辞めて、とにかくやらざるを得ない環境に身を置くことにしたんです。結果としてダメになるかもしれないけど、ダメなってから考えればいいやと思って。

※イメージ映像です

だんちゃん:知識も経験もないところから、どうやってお仕事を獲得していったのでしょうか?

菅野さん:はじめは「ロゴ1個5,000円でつくるよ」とか「一緒に名刺もつくるよ」といった感じで、知り合いに声をかけて仕事をもらっていました。仕事をもらったところから、その仕事に必要な技術を実践で覚えていくという形です。

20代の頃に住んでたシェアハウスの住人にデザイナーがいて、有り難いことにいろいろ教えてもらえたので、なんとかやっていけました。

だんちゃん:仕事と勉強を同時進行するのは大変そうですが、いつでも相談できる人がいるのは心強いですね。

菅野さん:仕事をしながら勉強するのはそんなに大変ではなかったんです。スケジュール的には昼間に仕事をして、夜は家で勉強するので、大変そうに見えると思うんですけど、僕の感覚としては仕事の中に勉強っていう業務があるって感じだったので苦ではなくて。ただ、そこからデザイナーとしてやっていける段階まで仕事を増やすのは苦労しましたね。

だんちゃん:事務所を立ち上げて1年が経った現在は、お仕事も軌道に乗っているんでしょうか?

菅野さん:「軌道に乗った」とまで言えるかわかりませんが、今はスタッフが2名も加入してくれて楽しく仕事ができています。負けた当時はひとりで活動していたので、視野が狭くて自分のまわりしか見えていなかったのも負けた原因のひとつかもしれません。

菅野さんが代表を務めるデザイン事務所「A4屋」の外観

だんちゃん:視野が狭くなっていると、可能性も狭めてしまうんですね。

菅野さん:だから今は人との繋がりを大切にして、スタッフやデザイナーの知人たちとコミュニケーションを取りながら仕事をしています!ひとりで考えてつくっていたときよりも、さらに良いものを生み出せていますし、「勝ち」に近づいている実感もあります。

もし、当時の自分に何か伝えられるとしたら「もっと人と関わって、いろいろな考えに触れたほうがうまくいくよ」と伝えたいです。

A4屋のデザインで、地元・福島を盛り上げたい


だんちゃん:負けを乗り越えてデザイン事務所を立ち上げて、もう「勝った」とも言えそうですがどうでしょうか?

菅野さん:うーん、ちょっとまだ言えないですね(笑)事務所を立ち上げてからもたくさん負けてきましたし、苦しくて辞めようと思ったことも正直あります。でも思いつめて布団に潜り込んだとしても、目が覚めたら「こういうこともあるか!」と切り替えて、とにかく動き続けてきました。

デザイナーは簡単な仕事ではないですし、僕のデザインに対して「なんだこれ」っていう方に出会うことも、まだまだあるはずなので。負けて落ち込むんじゃなくて、それも経験として受け止めていこうと考えています。

だんちゃん:勝つためにには、負けを負けで終わらせない覚悟が必要なんですね。デザイナーとしての今後の展望や目標はありますか?

菅野さん:いずれは地元に貢献したいなと考えています。僕の地元は福島県の飯坂温泉という観光地で、実家が和菓子屋をやってるんです。なので、ちょっとかっこよく言えばA4屋のデザインで地元や実家を盛り上げていきたいですね。それができたとき、心から「デザインで勝った」と言える気がします!

だんちゃん:菅野さん、素敵なお話をありがとうございました!

あとがき

「デザインの希望や事業の目的だけではお互いの本音は語れない、お互いが溶け合わないと良いものはつくれない」との考えから、打ち合わせでは基本的に雑談しかしないと話していた菅野さん。

インタビュー中もにこやかに、雑談を交えながら受け答えしてくださったのでリラックスして進められました!とくに印象に残っているのが、眼鏡店の販売員時代のエピソード。

上司に提出した企画書の上にコーヒーカップが置かれているのを見て「屈辱コースター」という作品を思いついたそうです。人によってはネガティブに受け取ってしまう出来事も、発想を転換させればクリエイティブに昇華できるんですね。

菅野さんが代表を務めるA4屋はギャラリーも併設しています。芸術の秋、独創的なアート作品に触れてからの谷根千散歩なんでいかがでしょう。

A4屋オフィシャルサイト

文・だんちゃん
編集・なりり
バナー・ぜっこす





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