1月定例会レポート 大垣ガク×前田高志
前田デザイン室の定例会は、室長である前田高志さんとゲストが対談を行います。
1月の定例会のゲストは、アシタノシカク株式会社 代表取締役 大垣ガクさん。大阪難波にある前田デザイン室の秘密基地にて開催され、会場には十数名の参加者、そしてオンライン配信では約3000名(※室長調べ)の前デメンバーがその対談を楽しみました。
大垣 ガク
<アートディレクター・クリエイティブディレクター、空間デザイナー>
CI、VI、広告企画・デザイン、web、パッケージデザイン、
プロダクト開発、web 等のコンセプト及び視覚コミュニケーション全域を
アートディレクション&デザインすることで、効果と実績をあげている。iF、ADFES、Times Asia、ACC、 グッドデザイン賞などの様々な国内外の賞を受賞。
専門誌などメディア多数掲載。「Soft Bank SELECTION」「comodaru furniture 小紋樽」
「KIKICOCO」「 ELECOM 」などでプロダクトデザインや商品開発も多数。
今回はその対談の模様を昨年末に前田デザイン室に入会した、43歳インテリアデザイナーの谷口 博紹がレポートさせていただきます。ちなみに私はライブ配信で拝見することができなかったのでアーカイブ動画を後日視聴しました。
※前デメンバーになると、今までの定例会のアーカイブ動画も全て閲覧可能です!
およそ2時間の対談は楽しそうにデザインを語る大垣さんの笑顔と前田さんの何度も出る「いいっすねー」がとても印象的でした。その和やかな対談で語られた、お二人に共通する<デザインを楽しむ>という姿勢やこだわりを、少しでも多くのみなさんへお伝えする為にレポートを記していきたいと思います。
まずはお二人の実績を交えながら対談の中で語られた仕事に対する考え方を紹介したいと思います。
■ 仕事は自分で楽しくするもの
大垣:僕は、仕事は自分で楽しくできるものだと考えています。といいつつも、以前TGV(TokyoGreatVisual)で勤務していたとき、特に駆け出しの頃は、全然仕事を楽しめていませんでした。
デザインのダメ出し受けることが多すぎたからです。当時お付き合いしていた彼女である今の妻に「僕はもうアンパンにあんこを詰める仕事がしたい」と弱音を吐いたこともあるくらい。でも、パンにあんこを詰める仕事だって決して楽じゃないんですが、つまりそれくらい追い込まれていたってことです。でもそんな極限状態も徐々に乗り越えられるようになり、自分なりに楽しみを見出せるようになりました。
<グンゼ男性用下着の広告デザイン>
日本ハム選手時代の新庄剛志選手を起用した広告デザインを担当。多くの制約や条件がある中でも様々なアイデアをクライアントへ提案。
例えば当時はまだ珍しかった下着をギフトにする提案したり、パンツ自体のデザインも奇抜な物を色々と考案されたそうです。
前デで作ったあのモザパンのアイデアも提案されたことがあるそうです。
採用されなくても自分が楽しいと感じるものを発信することは自分のためにもなるし結果クライアントのためにもなる。
■ 好きは仕事につながる
大垣:アシタノシカクには事務所の横にASITA_ROOMというオルタナティブスペースがあります。元々はスタッフと仕事以外の明日やりたいと思う事を話す場所だったのですが、今では純粋におもしろいとか興味があるモノゴトを扱うギャラリーになってます。
デザインって説明ができないといけないモノじゃないですか。それを扱う場所がオフィス。一方、ASITA_ROOMでは未知や謎といった価値の確定しないモノを扱いたかった。それが同時に存在することで(クリエイターとしての)健全が保たれるというのが僕の考え。
<雑談からはじまったアシタノホラー展>
「血みどろの怖い映画見ながらご飯食べれるんです」というぐらいホラー好きなスタッフがASITA_ROOMを使って企画展を開催。
ポップカルチャー/アート+ホラーをテーマにした作品展示やグッズ販売を行った所、予想に反した大ヒット。
世の中にはホラー好きを満足させるこういった企画展が不足していた様で、ASITA_ROOMを使ったイベントとしては一番の集客と売上に。
結果、アシタノホラー展は株式会社として独立。展示会は現在4回目の開催を迎え、グッズ販売のECサイトも絶好調。
まさにASITA_ROOMをきっかけに出会った未知の価値。
■ つまらない仕事をひっくり返す
大垣:オモロそうな仕事はギャラがしんどいのがアルアルじゃないですか。でもずっと無理やり仕事をオモシロくする努力を続けたら、少しずつオモシロイけどギャラもちゃんとある仕事が増えてきたんです。
でもずっとお付き合いで続けている様な仕事も断りません。それはスタッフにも自分がしてきたように地味でしんどい仕事をひっくり返して欲しいからなんです。
前田:そおいう意味で一番ひっくり返したなぁっていうベストワークって何ですか?僕は「勝てるデザイン」にも書いたサンガの広告グラフィック。
<パープルサンガガイドブックに載せた広告>
前田さんの任天堂時代の仕事にも多くのルーティンワークがあったそうで、その中のひとつがこれ。
シーズン毎に発刊されるガイドブックでしかも読者はパープルサンガのファンだけ。そうなると誰もデザインに拘らないし上司も関心なし。
でもそれをつまらないと感じた前田さんは当時の広告商品であったWiiの機能を使って選手全員のMii=似顔絵を作成。
スポーツチームのよく見る集合写真をそのMiiによって再現。それを広告として掲載した所とても大きな反響があったそうです。
仕事に対する反響の大きさというのは規模や予算ではなく、ひっくり返した大きさのギャップによって決まるのかもという前田さんの体験談。
ここからはクリエイティブ職を目指す学生に対して、大垣さんが行ったセミナー時に使用した資料に沿ってのお話になります。
より<デザインの本質>に迫った内容で、僕のようなデザイナーが聞いていてもたくさんの気づきがありとてもおもしろかったです。
■ タノシイをつくる前に心構え・覚悟
大垣:僕にとっての楽しさは未知に飛び込んで行くことで
クリエイティブって「未知の知」だと思っています。
未知に対するのは既知じゃないですか。既知は既に知られているモノゴトでそれは価値が確定している。対して未知はまだ価値を生むか不確かなモノゴト。そしてその価値が不確かなモノゴトを扱うのがクリエイティブ。
人は結果や反応が分からないモノゴトに対してなかなかお金は払わない。
これがクリエイティブでお金持ちになるのが難しい理由です。
でも価値が不確かな未知を扱うからこそクリエイティブは楽しい。
しかも未知は既知の周りに無限に広がっていてそれに向かって進むことが楽しいの本質だと思います。
確かにデザイナーでお金持ちになれるイメージはない。でもそれに関してここまで分かりやすくて納得性の高い説明を聞いたのは初めてでした。
確かにタノシイの前に必要な覚悟かも。
■ クリエイティブの1番おいしい部分
大垣:クリエイティブ=未知なんだけど、あんまり未知すぎるとみんな受け入れられない。でも既知だと興味が湧かない。りんごの皮と同じで、クリエイティブも未知と既知の際(キワ)の部分が一番栄養があっておいしい。
前田:なるほど!未知と既知のあいだぐらいがありそうでなかったモノってことですね。
図にある言葉は未知と既知を対比させるために大垣さんが選んだワード。
確かにクリエイティブは未知に関するワード<問い、想像、真実、ナラティブ、偶然、社会>の要素が入ってないとぜんぜん面白くないと思う
前田:最近は「どうにかしてください」みたいな完全に未知な仕事の相談も多い。でもそんな時は逆に既知<答え、現象、事実、エビデンス、必然、市場>に近づければいいってことですね。
大垣:そうなんです。あくまで完全に未知ではなくてあいだの皮の部分が大事なんです。
■ 理想を持つことが大事
大垣:アシタノシカクではCommunication(広告)とSpace(空間)とArt(芸術)を串刺して何かできたらいいなと考えています。僕は求道的に何かを研ぎ澄まして行くより、バーベキューのように串刺して色んなモノを食べる感じが理想。なぜならその方が楽しいから。
もちろん1枚の肉をじっくり育てて焼いて食べる求道的な道もあるだろうけど、その選択は人それぞれ。
■ タノシイのつくり方①<余白・偶然性をつくる>
大垣:余白や偶然性ってまさにASHITA_ROOMのことなんです。変化する場所、期待を作る場所、実験・検証を行う場所。利益なんて無視で「やりたい気持ち」を優先する場所なんです。前田デザイン室も同じでしょ?
前田:前田デザイン室は「仕事とは真逆」とか「仕事では味わえない」をテーマにしてます。僕はクリエイターストレスってあると思っていて、昔は仕事以外で思い浮かんだアイデアとかデザインを表現する場所がなかった。そういった悶々とした気持ちを解消できる場所です。
■ タノシイのつくり方②<体験・参加/共鳴をつくる>
大垣:アシタノシカクのCIは窓になっていてその窓からみんなが覗ける。
ここに入ってもらって写真を摂ることでアシタノシカクに参加してもらった感じが出るし、チーム感が生まれるんです。
前田:僕もこれ入りたかったんですよ!みんな自然と笑顔になるのがいいですよね。
大垣:これからは参加や共鳴によって、こっちが語るのではなくみんなに語ってもらうことが大事だと思っています。
だから「時には、あえて完成させない勇気を持つべきかもしれない」
これが今後のデザイナーのテーマっぽい気がしてるんです。全部を作り込んで「これええでしょ!」って出すのではなくて「ここは埋めてくださいね」という部分を残しておく。未知や偶然で埋める余白をという考え方です。
■ タノシイのつくり方③<デザインすることをつくる>
大垣:結局はじめの話と同じなんですが、楽しく仕事をしたかったら楽しい仕事を作るしかない。
例えばこの関テレのVIも依頼された仕事では無くて、新聞広告の仕事をきっかけにこちらから当時のVIの問題点を提示することで依頼を受けることになりました。
グリーニアも初めはグッズのデザインを依頼されただけ。でも担当者と打合せしていると、担当者のクリエイティブに関する依頼先の間違いに気付きそれを伝えたことで、広告デザインを含むさまざまな仕事の依頼に繋がりました。
他にもここでは紹介しきれないぐらい多くの実績紹介があり「これ見たらデザインしたくなる人がいっぱい増えると思う!」と前田さんが言うように、本当にどれも魅力的な作品ばかり。そして何より仕事を語る大垣さん自身がとても穏やかでありながら本当に楽しそうでした。
■ クリエイティブでタノシイをつくる 3つのKEY WORD
「コ・クリエーション<共につくる>」
「セレンディピティ<良い偶然性>」
「サーチ≠リサーチ<寄り道の幸>」
大垣:サーチしたらすぐに情報は出てくるけど、リサーチは進めるうちに違う情報が出てきて、そこに偶然が生まれて幸が生まれる。
前田:サーチは似ますよね。みんな同じ答えに行き着いてしまう。
インターネットでの<サーチ=検索>と
実際に耳目で感じた<リサーチ=調査>は似て非なるもの。
■ 最後に「タノシイはつくれる!」
大垣:クリエイターの前に人間だし、絶対に楽しい方がいい。
前田:そうなんですよ。デザインって学問的になりがち。特にトップクリエイターたちの本とかってその傾向が強くて、ただ僕にはそれが全く理解できなかった。
だから僕は幅が狭くて綺麗な水が流れている川の上流ではなくて、濁っててもいいから広い川の河口に進もうと思った。もっと色んな人がデザインってオモロイって思って欲しいから。
この考えって、これからデザインを学びたい人、デザインに対して遠慮や抵抗のある人、
デザインに疲れたりつまづいたりしてる人、
もちろん現役でデザインをがんばっている人、
そんなデザインの周りにいる全ての人に対しての思いやりですよね。
そんなデザイン界のマザーテレサでもある
前田高志さんが主宰する前田デザイン室は
「おもろ ! (アイデア)、たのし ! (積極性)、いいな ! (クオリティ)」の行動指針のもと様々なプロジェクトや交流が進行中です。
少しでも興味を持っていただけたなら是非とも
前田デザイン室に飛び込んでみてください!