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「デザイナーこそ畳み人であれ」 設楽悠介、前田高志 対談

6月9日、前田デザイン室の定例会が、オンラインで開催されました。今回のゲストは、幻冬舎に勤務する傍ら、「畳み人ラジオ」や「畳み人サロン」などの活動も精力的に行い、今年2月に『「畳み人」という選択』という書籍を出版された設楽悠介さん。

設楽さんバナー元

その定例会の様子をレポートします。

設楽さん微笑み

設楽悠介さん (以下、設楽さん)

1979年生まれ。明治学院大学法学部卒。マイナビを経て、幻冬舎に入社。同社で、編集本部にコンテンツビジネス局を立ち上げる。電子書籍事業・WEBメディア事業・コンテンツマーケティング・新規事業等を担当。主な担当プロジェクトとしては「13歳のハローワーク公式サイト」「幻冬舎plus」「NewsPicksアカデミア」など。仮想通貨・ブロックチェーンに特化したメディアプロジェクト「あたらしい経済」を創刊し、編集長に。個人として、NewsPicks野村高文氏とのビジネスユニット「風呂敷畳み人」を組み、Voicyで「風呂敷畳み人ラジオ」の配信や、「風呂敷畳み人サロン」など、数々のビジネスコンテンツを発信。サウナ好きが高じて「サウナサロン」も主宰している。

設楽さんと前田高志さん(以下、前田さん)は、幻冬舎の編集者 箕輪厚介氏が主宰するオンラインサロン「箕輪編集室」で知り合いました。そして、設楽さんがNewspicks編集部の野村高文さんと共同で主宰する「風呂敷畳み人サロン」のロゴを、前田さんがデザインしました。設楽さんの「畳み人」という考えを知った前田さんは、「デザイナーこそ「畳み人」であるべきだ」と思い、ゲストにお招きすることが実現しました。


もっとはみ出せ!

お話は、『「畳み人」という選択』の中で、前田さんが最も印象に残っているエピソードから始まりました。あるとき設楽さんは、幻冬舎の見城社長から「今やってることで満足するな。出版社は紙の本を売っているだけでは5年後、10年後に潰れると思って、もっとはみ出せ!会社を作っても、何やってもいいんだよ」と叱咤激励されたことがあったそうです。「なんでオンラインサロンをやらないんだ」と怒られたこともあったとか。

前田さん設楽さん2ショットトーク

設楽さん:変な会社ですよね。もっと売れろみたいな。

前田さん:他の社員さんからは、何も言われないんですか?

設楽さん:僕は仕事もちゃんとやるキャラクターなので、他の社員も僕に直接は言ってこない。でも裏で色々言われてたりする、というのは聞きます。「良いですね、副業が出来るなんて」とよく言われます。見城さんは、副業などを応援してくれるスタンスですが、結局、仕事は普通の大人の中でやるわけですよ。よく思わない人もいるし、冷や冷やしながら切り開いてきたところはあります。結果的に、自分でリスクをとっている。でも最終的なところは、見城さんに「あの時はみ出せと言いましたよね」と言えることが支えとしてありました。



どんな仕事でも役に立つ

マイナビの社員だった時は、他の社員に比べて、編集に関する知識やスキルがあり、評価されていた設楽さん。でも、幻冬舎に転職すると、周りには設楽さんと同じように、編集に詳しかったり、スキルを持っていたりする人が沢山いて、今のままでは生き残れないと感じたそう。そして、このままではいけないと思い、マイナビ時代に副業としてやっていたwebデザインの経験を活かして、デジタル化のプロジェクトができないか模索していきました。そうしているうちに、「インターネットに詳しい人」として評価されるようになったそうです。

設楽さん笑い

設楽さん:幻冬舎は、マイナビよりも年収が100万円から150万円下がる。しかも、初めの雇用形態が契約社員。結果を出さないと社員になれない、そう思いました。「ここで活かせるのはなんだろう」と思ったら、webデザインをやっていた知識が活かせた。幻冬舎には詳しい人がいなかったから。これは、戦略的というよりは、生き残るためにやりました

前田さん:日々やってることでは生き抜けない、と感じて勝手にやったんですね。

設楽さん:そうです。通常運転してるとあの先輩くらいになるだろう、とわかる。半年くらい勤めて雰囲気がつかめてきて、2年後あそこにいると想像した時に、「なんか違うな」と感じたんですよね。インパクトを出さないといけない、と思いました。当時は上層部にいくほど、インターネットがわかっていないように感じました。そこで、色々な上層部から相談を受けたネット関連の相談に対して、わからなくても「できます!」と返事をして、自分で一生懸命勉強しました。

設楽さん:僕、どんな仕事でも役に立つと思っていて。やりたくない仕事も全部。雑用みたいな仕事も、2、3年後に何かしらで役に立っている。 ちなみに見城さんのこんなエピソードがあるんです。見城さんは、角川書店に入社時、ゲラのコピー取りを指示されたときに余分にこっそり1部コピーを取っていたようです。そのゲラを自分ならこう直す、と赤を入れてみる。そして、後に出来上がってくる上司が直した原稿と、自分が直したところを照合してみるということをしていたらしいです。 それが学びになった、と言っていました。単純作業が何かのスキルアップにならないか、と探っている。気持ちのもちようって大事だなあ、と思って。


声がかかり続けることが大事

幻冬舎でwebデザインの経験を活かして評価された話を聞き、オンラインサロンでも同じことが言えるという前田さん。そして、設楽さんが、コミュニティや会社の中で知られるようになって、声が掛けられることの大事さと、更にその先にある、声がかかり続ける重要性について、話してくださいました。

前田さん微笑み

前田さん:オンラインサロンで何かやるのも近いな、と思っていて。会社でもそう。まず、知ってもらう、というのが大事ですよね。行動していると、知られてくる。「箕輪編集室」の中でもそうだったんですけど、最初は誰にも知られていなかったんです。でも、バナーを作って出しているうちに、段々と知られてきた。

設楽さん:目立つには、アメリカ人みたいにやるのが正解だと思っていて。あいつ目立つな、と思われるようにやっていく。やりたいことを、やりたいとしっかり言っていく。それらが初めの印象づけには大切。アテンションを集めて目立つには、空いてるところを狙えばいい。他の人がやっていないことをやればいい。もちろん一定の質をちゃんと維持する、本質的な部分を外さないということは大前提必要ですが、その上で逆張りしたり、ずらしたりすれば、そこに辿り着けます。 さらに、それにプラスして、ちゃんとしている感じが大事だと思う。目立ってから、声がかかり続けることが大事で、それを維持するためには、周りの人にあまり嫌われず、ちゃんとコミュニケーションをとることが大事ですね。


畳み人は、自分にとっての合理性

著書に、設楽さんが、ある先輩からプロジェクトの相談を受けた際、「辞めた方がいいですよ」と言って先輩から怒鳴られた話があります。その時に先輩が相談してきたのは、「意見を求めていたから」ではなくて、「共感を求めていたから」ということに気づいたそうです。そして設楽さんは、畳み人は自分の合理性を追求したものだ、と語ってくださいました。

前田さん設楽さん 2ショット笑い

設楽さん:ある時から、畳み人ってある意味ドライだけど、合理性を追求したからそうなったと思うようになったんです。仕事である程度ポジションが取れて来ると、おじさんのアイデアに「ダメですよ、そんなの誰も使わないですよ」みたいなことを言ってしまっていた。でも、結局そこで初めに突っぱねた上司に腕力があったら、赤字を出しそうになっても継続できてしまう。そんな時「ほら言ったでしょ」と言ってしまうと、その上司は敵になってしまう。それって、合理的じゃないなと思って。ダメだと決めつけて初めからやめさせようとする意見は、親友のアドバイスのようには染み渡らない。

設楽さん:初めにその人が頑張って考えたアイデアを否定したら、意地になって話を聞かなくなる。共感する状況や関係性を作ってから「でも、こうした方がいいんじゃないですか」と意見を出していく。皆が幸せになるのはそっちだな、と考えています。畳み人というと、0→1の人の横でアイデアを膨らませる参謀のようですけど、実は自分に都合よくしたいから畳み人になってる、みたいなところがあります。

前田さん:合理的から来てる、っていうのは面白いですね。

設楽さん:『共感SNS』という本の編集を担当していた時、著者のゆうこす(菅本裕子)さんと僕とのやりとりは、主にLINEで行っていました。原稿を確認してもらう時に、pdfで送ると、開いて読み込むまでに時間がかかる。だから、スクショも送るしURLなどは分けて送る。LINEだと、文章と一緒に入っているURLを書き出したい時に、一度どこかにコピーして貼り付けてからURLを切り出さないといけないじゃないですか。だからpdfも画像も分けて、見やすいようにする。でも、それもある意味、早くゆうこすさんにOKもらって飲みにいきたい、 という自分の合理性があるからそのために、返事がしづらいものにしない。返事しづらいと、移動中だったら、「後にしよ」となってしまう。だから、分けて送った方が俺得だよね、という気持ちでやる。そうすると、自分に時間が生まれるんです。何度も確認しないといけないメールって、嫌なんですよね。会って話せば5秒で決まる話が、何往復もしてしまう。だから、そこを工夫する。illustratorだって、ショートカットを覚えていたら作業効率が違うじゃないですか。学ぶのは面倒臭い。でも、学ぶことで、回り回って効率的になる。

前田さん:本当にデザインも同じですね。だからこそ「デザイナーは畳み人であれ」と思うんですよね。

設楽さん:そうですよね。デザインをしていて、相手が言っていたことが180度変わってしまう、ということがよくあるじゃないですか。

前田さん:あります。「本当に求めてるものはこれじゃないですか?」とこちらからきくこともあります。


前田さん:料理研究家の栗原はるみさんを思い出しましたね。あれくらい料理が出来る人は世の中に山ほどいるのに、それでもブランディングされているのは、ビジネスコミュニケーションがしっかりしてるから。要するに、ちゃんとしてるんですよね。

設楽さん:そう。だから、ちゃんとしてることって大事だな、と思います。

前田さん:本当にそうですね。


挨拶も合理的

ビジネスコミュニケーションにおいて、「くどいくらいに主語をつけろ」と話す設楽さん。チャットツールが流行る今、特に主語をつけることが減っているといいます。仕事のミスは、大体が確認のミスや認識のずれによるもの。著書にも、主語は大切だという話があり、その他にも仕事の基礎として、挨拶とお礼について書かれています。そして、挨拶やお礼をする際には、相手の名前をきちんと呼ぶ行為も大事と付け加えています。

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前田さん:本の内容に、挨拶が入るのって、すごいなと思って。

設楽さん:ビジネス書の中に挨拶のことを書くのは、勇気がいります(笑)。

前田さん:でも、確かにそうだな、と思いましたね。名前を呼ばれて挨拶されたら、嬉しいですもん。

設楽さん:それも経済合理性の話で、前田さんの作品を見て感想を言えば、前田さんは嬉しい。ただ、それをするには、何時間かはかかる。もちろんそれだけ時間をかけてやることにも、価値がある。でも、挨拶は何もしなくても出来る。そして、好感度が上がる。しかも、かかる時間は1秒。それって、めっちゃ合理的、と思って。

前田さん:本当に、挨拶すると打ち解ける感じはありますね。


設楽さん:この『「畳み人」という選択』を書いていて、自分のことを俯瞰して見た時に、結局、面倒くさがりなんだなと思いました。なぜかというと、周りに確認を怠っている人がいっぱいいるから。自分だったら「これで本当に大丈夫ですか?今ここで決めたら、これでいきますよ?」と確認する。

前田さん:デッサンにもそういうのがあって、書いていく順番があるんですよ。絶対ここは変えない、というのがある。コップの底を、ここは濃く書いたら、あとは変えない。出版を予定している僕の本『勝てるデザイン(仮)』でも、デッサンとつなげて話しましたね。そこを抑えておかないといけないタイミングがあるじゃないですか。大体の場合、そういうところで怒られるんですよね。


質問

最後に、質問コーナーもありました。

【質問】畳み人の仕事は、周囲から気付かれにくくて、なかなか評価されづらい気がしています。自ら上司にアピールする、上手な方法はあるでしょうか?

設楽さん: 手っ取り早い短期的な評価ではなく、会社から長期的な評価をもらえるようにすること考えた方がいいと思っています。自分が思っている評価軸と、上司が思っている評価軸って違ったりするので、中長期的にはちゃんと評価される。仮想通貨もそうなんですけど、バーンと跳ね上がると、その後急激に落ちる。積み上げていった信頼の方が、落ちにくい。そういう評価をとった方が、最後の評価は勝てると思います。ちゃんとした評価をしてくれる先輩がいるなら、そのまま頑張ればいいと思う。その方が、美学を感じるんですよね。うまくいってる現場は、あいつがいるからなんだな、という評価をもらえると嬉しい。

設楽さんトーク

そして、最後に前田さんからも質問がありました。

【質問】ある程度仕事が出来るようになったら、人に任せないといけないじゃないですか。人への任せ方って、すんなりできましたか?気になってしまうところから抜け出すことって、できますか?

設楽さん:これは、全ての人がぶち当たる壁で。でも、やっぱり自分がやっちゃうとリソースが足りなくなる。だから割り切って依頼していくのが、めちゃくちゃ大事なんです。やってもらうと、一瞬クオリティが下がるけど、我慢する。そして、ちょこちょこ口を出す。もちろん、自分がやった方が100倍速い。でも、ちょこちょこ言いながら我慢すると、人は育っていく。責任のある仕事を振っていくと、育つ。そして自分自身、「仕事を依頼する」という成功体験を、積み上げていく。そうしていかないと、破綻して元も子もないことになってしまいます。とは言っても、これは皆が悩むことですね。


設楽さん:解像度を、あえて下げないといけない。打席やチャンスを与えないと、育たない。あと、人は思ってるほどクオリティを気にしていないです。「あたらしい経済」のバナーを、最初は自分で作っていたんですけど、途中から他の人に任せたんです。でも、誰からも指摘されなかった。自分としては許せないクオリティだったんですけど、段々その人が育ってきて、そのうちに、「あたらしい経済」のバナーが素敵!というコメントをもらったりもして。

前田さん:そうすると、違う喜びが生まれますよね。

設楽さん:そうですね。全部自分でやると、結局遅れがでたり、断らなきゃいけなくなったりなる。それは、クオリティが下がるよりも大きな機会損失になる。だから、人に振って、我慢するようにしています。



畳み人という働き方、それはビジネスにおいても、デザインにおいても、「全てに通じる最強のスキル」だと感じました。設楽さん、貴重なお話を聞かせて頂き、ありがとうございました。



レポートだけで書ききれない内容は、前田デザイン室内で配信されている映像をご覧ください。前田デザイン室はこちらから入会できます。




テキスト・バナーデザイン:林潤
写真:かもゆうこ
監修:浜田綾、前田高志、遠藤良二、前田真里

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