10月定例会のゲストは『ヒ・ミ・ツ』! ドラマ・映画監督の夢へと繋がった、これまでの道すじ
こんにちは。
前田デザイン室の大久保です。
前田デザイン室の10月定例会は東京で開催されました。
今回のゲストは、なんと……ヒ・ミ・ツ!!事情がありお名前は出せないものの「ドラマ・映画監督」としてご活躍されている方にお越しいただき、たっぷりお話を伺いました。
お名前と共に携わってきた作品名を出せないことが残念ですが、それでもたくさんのクリエイターへのメッセージになると思い、ゲストの方を「ヒミツ」さんとして、トークの様子を今回レポートとしてお伝えします。
なかなか知ることのできない、映画やドラマの世界。ぜひ、想像を膨らませてお読みください。
ヒミツのゲストさん
前田さんとは、専門学校の同級生。ここまでドラマや映画の現場で数々の作品の制作に携わる。その作品の数々は名前を聞けば誰もが知っているものばかり。現在は会社員として、制作の現場で活躍中。
30秒のリアルな恐竜より、5分間の驚く人間を見ていたい。
前田さんと同じ専門学校にいたヒミツさんが、デザインではなく、なぜ映画の世界に進んだのか。それは学生時代の経験が大きいようでした。
ヒミツ:専門学校ではデッサンや色彩を学んでたんですけど、周りを見たら「敵わない。自分はセンスが無い」って一度ダメになっちゃったんですね。その時に自分がやりたいものってなんだろうって考えて、昔から映画が好きなことに気付いて。そして、ちょうどその頃見た映画が衝撃的だったんですよ。その映画が『ジュラシックパーク』(スティーヴン・スピルバーグ)。あのCGで動き出した恐竜達を見て、度肝を抜かれたんですよね。
前田:初めはCGに興味があったんや。
ヒミツ:それから大学に進んだんだけど、1年生の時に日本画、油絵、彫刻とか、興味がなくてもあらゆるジャンルを授業の中で全部やらされて。その中には当時は珍しいCGの授業もあって、初めはそれを専攻していきたいと思ってたの。でも実際にやってみると、当時はマシンパワーも未熟で5分作るのに何日かかるんだという状況で、やりたいことが表現出来なかったんですね。それで、ちょうどCG専攻と一緒に映画制作の専攻もあって、それも1年のうちに経験したんですね。そこで、なんか面白いなと思って、2年からは映画制作の専攻に進んだんです。
前田:へー、そこで出会ったんだ。色々やるっていいかもしれない。もしかしたら粘土こねて陶芸家になっていたかもしれないんだし。ジュラシックパークを見てCGだと思ってたけど、実は映像の方だったってことに気付けたんだ。
ヒミツ:そうかも。いざやってみたら、30秒よりも5分で伝えたい、って思いの方が強かったんだよね。CGで作られた恐竜が怖いっていう感情は、恐竜が人を噛むことが怖いんじゃなくて、噛まれる前の驚く人の顔から生まれてるんだ、そこで表現するんだって思った時に、そっち側を作る人になりたいんだ、って思ったの。
前田:感情を動かすことをやりたいって気付いたのかもね。
就活する時間があるなら、自分で映画を撮りたい
前田:大学で映像を学んで、それからどういう道を辿ったの?
ヒミツ:初めは就職せずに自主制作映画を撮ろうと思ってたんですね。でも大学4年生の11月のある日に、元々ある映画会社で監督をしていた大学の教授と話をしていたの。その教授に「映画の現場で働きたい」って言ったら気に入られていたのか色々と働きかけてくれて、その翌週に東京で面接することになって、そのまま4月から映画の現場で働くことになったんです。
前田:すごいやん。いきなり助監督。
ヒミツ:社員ではなくてフリーなんだけどね。でも、なんでその時教授に仕事の話をしたのかは忘れてしまったけれど、自分の言葉として口に出したことでトントン拍子に進んで、制作の現場で働き始められたことは不思議だなって思いますよ。
前田:口に出すって大事だね。自分の夢とか目標は言葉として出していかないと。大学4年の11月までは何をしていたの?
ヒミツ:もうその頃から自主制作映画を撮ってた。就活する時間があるなら、撮っていたいっていう気持ちが強かったのかな。
前田:ああ、それを教授が見てたから「こいつ本当に撮りたいんだ」と思って、紹介してくれたんだね。そのタイミングじゃなくてもいずれそうなった気がする。どんな映画を撮ってたの?
ヒミツ:ジャンルは色々。卒業制作では、生き別れた兄貴に会いに行くような話を作ったの。元々、自分が兄貴と口をきかないくらいすごく仲が悪くて、それを見つめ直したかったのかもしれない。私情も挟まって、あまり出来は良くなかったかもしれないけれど、両親はとても喜んでくれて。自分の中では特別な作品かな。
前田:お兄さんはその映画見たの?まだ仲悪い?
ヒミツ:見てないんじゃないかなあ。でも、その映画きっかけで両親が兄弟二人きりの時間をつくるようになって。今では兄弟で結構仲良くなった。
前田:絶対見てるわ。だからお兄ちゃんも心開いたんじゃない?
ヒミツ:誰かに見せるためってわけじゃないけど、個人的につくった唯一の作品かもしれない。
前田:それ自体が物語になりそう。映画が人生を動かしたんだよ。
今日の撮影の失敗は、明日の撮影で成功に変えればいい。
前田:助監督ってどんなことするの?
ヒミツ:助監督といっても何人かいて、ランクが違うんですよ。僕はその時一番下っ端の4番目の助監督として現場に入って、とにかく上の助監督たちの雑用係から始まりました。お弁当とか飲み物買ってきたり。
前田:ADみたいなこと?
ヒミツ:まぁそうかも。その仕事をしながら上の人を見て学ぶのね。それをしているうちに、次のレベルへ声をかけられて、美術担当として3番目の助監督になれたと同時にある特撮シリーズのメンバーに入ることになったの。
前田:へぇー、あの『(作品名)』に!すごい!
ヒミツ:美術担当になってから、監督がこだわったシーンを撮りたい機会が訪れて。一度撮影したものをVHSで映して、それをまた撮影するっていう方法だったんですね。そこでいざ撮影になったら、ビデオデッキがVHSのテープを巻き込んじゃって1日撮影ができなくなったんです。つまり、人や機材が1日分無駄になってしまった。現場では僕が責任者になるから、たくさん責められて謝ることになって。次の日にもう一度撮影するんだけど、その時は美術部に頼らないで自分の家からビデオデッキを持って行って、全部自分で配線もしたの。それが監督に気に入られたみたいで、それから同じシリーズに何度も呼んでもらえるようになったんだよね。
前田:いい話。失敗ってチャンスでもあるから、失敗しても全然良い。むしろ挽回したらより評価が上がるよね。他にはどんな仕事をした?
ヒミツ:同じジャンルをずっとやる人が多い世界なんだけど、僕は珍しくて、特撮をやったり刑事ものをやったりで、色んな現場で色んな経験ができた。違うジャンルや現場を経験したことで、たくさん失敗もしたけど、それぞれに活かすことができた。撮影技術もそうだし、役者との触れ合いかたも勉強できたの。それがラッキーだったなって思う。色んな現場と経験の中で、ある監督に気に入っていただいて、今の会社にはその縁もあって働くことになりました。
映画は人がつくるもの。一緒につくりたいと思われる人に。
大学の教授や、現場で出会った監督など、人の縁にも恵まれながら、これまで仕事をされてたヒミツさん。しかしそれは単なる運の強さではありませんでした。
前田:全部誰かに見つけてもらえてる感じだよね、ここまで。
ヒミツ:運が良いんだけどね。ちょうど会社の中で抜けていた世代だからいれてもらえたのもあって。だからちょうどタイミングが、運が良かったんだよね。
前田:運が良かったのもあるけど、それを呼び寄せるのはそれまで行動している、努力しているからだよ。
ヒミツ:きっかけを掴むのは運かもしれないけど、そこで評価してもらえるかどうかは、それまでの努力かもしれない。それを見てくれてる人がいたのは、ありがたいなって思いますよ。
前田:誰も見ていないようなどんな些細なことでも、実は誰かが見ていて、何かに繋がることがあるだろうから。
ヒミツ:特に僕らの世界っていまだに人情で仕事する人が多いしね。腕がよくて性格が悪い人よりも、多少腕は劣っても性格が良い人を選んで、成長させたいって気持ちもあるだろうし。
前田:デザイナーもそんな感じ。だいたいテクニックはみんな同じ中で、この人と働きたいって気持ちが大事。一生懸命やっているとか、価値感が同じとか。
演出としての世界観のつくり方
ここからは、作品を作る上で重要な世界観の話に。クリエイターにとっては興味深い、作品の作り方のお話を聞くことができました。
前田:今まで色んな作品に関わってきたと思うけど、物語の世界観の構築ってどうやってやるのかな?
ヒミツ:すごく簡単にいうと舞台をどこにするか。例えば、渋谷なのか浅草なのかみたいに。最初はそこで、それと一緒に色味とか雰囲気を決めていくのね。下町っぽいのか、西洋寄りなのか、くすんだ感じか、パキッとした感じか、みたいにね。
前田:それは映像的に見て、美術とかを一緒に考えるの?
ヒミツ:総合的に考えるよ。この舞台で撮るなら、カメラは手持ちでワンカットで撮るか、一箇所の定点に決めて撮るのかで見え方も違うし。
前田:そうなんだ。役者の方から演出への提案ってある?
ヒミツ:もちろん。だいたいの流れで脚本が一度できたら、主役に投げるんですよ。衣装合わせの時に初めて役者と話すことが多くて、お互いの意見を聞いて、衣装も見ながらイメージを合わせていく。もちろん衣装部もプロだから、役者と作品に合わせたものを用意してるし、お互いを尊重し合えるように話して、物語のイメージを共有していく感じかな。
前田:衣装のプロの視点も加えて良くしていくんだね。衣装はどうやって準備してもらうの?
ヒミツ:カラフルとかカッチリとか、そういうイメージで伝えてる。だらしないけどカラフルな人にしたい、とかかな。自分のイメージに無かったけど良いものが出てきたりもして面白いよね。
前田:『踊る大捜査線』(監督:本広 克行)で主演の織田裕二の服とか腕時計とかを見て、演出の存在を意識したことがあるんだけど、ああいうのもお願いしているの?
ヒミツ:指定することもあるよ。役者のキャラクターを作る上で必要な場合もあるし。
前田:細かい部分が役者の演技に影響して、結果的に作品全体の面白さに繋がるんだね。あそこにいる猫(じゃみぃ)はクリエイターの猫で、徹夜明けっていう設定なんですよ。細かいけど、それが色んなところに作用する。デザインも一緒なのかなって思った。
ヒミツ:デザインの方がそれは強いかもしれない。細かく気付かない部分もこだわって作っているのかなって思うよ。
前田:昔、あるロゴの細かい裏設定を聞いて、ぽかーんてしちゃったこともあるんだけどね(笑)。
ヒミツ:受け手が色々調べて「へえ!」って思うくらいがいいんじゃないかな。やりすぎると趣味になっちゃうじゃないですか。その作品にハマった人が気付いた時に、もっと楽しめるようなポイントを作ることはあるかな。
前田:確かに。調べて「なるほどね」ってならないと意味がないよね。
ヒミツ:僕は演出担当で、脚本をいかに解釈して良いものにするかが仕事。自分の個性とか感覚が作品にとってプラスになるなら表現として入れるし、マイナスやよく分からなくならわざわざ入れることはしない。その作品にとって何が良いのか。それを自分の中に落とし込めていれば、作品をよくするためにすべきことは自然と選べるはずですよね。
前田:デザインも同じだわ。自分のやりたいことじゃなくて、何のためにやっているのかを忘れちゃいけないよね。
どのクリエイティブにも通じるもの
色々なものに挑戦をすることで、自分のやりたいことに辿り着けたこと。自主制作映画を作りながら努力し、自分の言葉で夢を語っていたこと。それが人の縁を生み、縁を大切にすることで、また人を繋ぎ、夢へと近づいていること。
夢だったドラマ・映画の現場で活躍するヒミツのゲストさんからのお話は、ドラマや映画というジャンルに関わらず、あらゆるクリエイターにとって勇気を与えてくれるお話でした。
お名前や作品名を出せないことが非常に残念ですが、ヒミツさん、本当に貴重なお話をありがとうございました!
なお、前田デザイン室のメンバーであれば、過去の定例会動画はアーカイブから見放題!「ヒミツ」ではなく、実際の作品名なども聴きたい!という方はぜひご入会いただき、一緒に楽しめたら嬉しいです。
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