カワグチマサミ & まえだたかし 漫画家対談【後編】
昨年の12月、前田デザイン室のZOOMイベントにて漫画家のカワグチマサミさんとまえだたかしさんが漫画対談を行いました。その時の対談の様子を再構成してお届けします。
前編はこちらから。
漫画のキャラクターの名前って意外と決められない!?
まえだ:僕が漫画家に転身したというこもあって、今回カワグチさんと漫画対談をこうしてやっているんですけどね、実は漫画を描くのがしんどいですよ。
カワグチ: そうなんですか?
まえだ:はい。そういう時ってない?「もう描きたくない」みたいな時。
カワグチ: この前、初めて2日ぐらい描けないって時がありましたね。
まえだ:その時は、どうやって立ち直ったの?
カワグチ: 大好きな音楽、「THE BLUE HEARTS」や「PENs +」の曲を聴いたりして無理やり立ち上がりました。本当はもっと休みたかったけど、締め切りギリギリで2日しか休めなくて。結局その後も体調崩しちゃったんですけど。
まえだ:それは、仕方ないよね。「漫画描くことがしんどいな」と思ったことはある?
カワグチ: エッセイ漫画だから少ないのかなっと思います。エッセイ漫画って、自分の実体験だから。「クレームとかきたら傷付かないの?」と聞かれることがあるのですが、逆に本当にあった実体験を書いているだけだから傷つかないんですよ。
まえだ:なるほど。
カワグチ: ショートのオリジナル漫画を描くこともあるけど、やっぱり積極的に見せようとは思わないです。
まえだ:それは、どこかで発表しているの?
カワグチ: そうですね。例えば、女性セブンで連載させてもらっている『How to ふるさと納税』という漫画の中でオリジナルキャラクターを提案したんですよ。
自分が作ったキャラクターは、自分の子供みたいな感覚です。だからもし何か言われたら悲しくなります。そういうこともあって、オリジナル漫画を避けてますね。
まえだ:なるほど。
カワグチ: オリジナル漫画を次にやるときは「凄く疲れるんだろうなぁ」と覚悟しています。
まえだ:僕は、もともと漫画家になりたかったけど誰にも「漫画家になりたい」と恥ずかしくて言えなかった。なぜなら妄想を人に言った時に鼻で笑われることが、裸を見られるよりも恥ずかしいから。
カワグチ: そうですよね。私もエッセイじゃない恥ずかしさがありますね。恥ずかしさというか……。ぶっ飛んでいるから「大丈夫かなぁ」と不安になります。
まえだ:不安になるよね。例えば、キャラクターの名前とか考えるとか、恥ずかしくない?
カワグチ: 恥ずかしい!「なんでこんな名前にしたの?」っとか。
まえだ:そうそう。例えば『7SEEDS』って漫画があるよね。あの中の登場人物は季節に関する名前の人が多い。それってわかりやすいよね。
カワグチ: 確かに、あれはすごいですよね。
まえだ:そう、わかりやすいし理由もわかる。デザインやっているからかなぁ。「なんとなく決める」って行為がすごい嫌なんですよ。
カワグチ: 理由が欲しくなるんですね。ロジカルな。
まえだ:そう。だから漫画のキャラクターの名前を決められないし、漫画作りがなかなか進まない原因の一つでもある。だから僕の場合設定から入った方がいいのかなと思っています。
(この対談の数ヶ月後のツイート、名前が決まった!?)
漫画の“設定の面白さ”が好きなまえださん
まえだ:なんでかと言うと、僕が好きな漫画って、設定の面白さにあるような気がするんですよ。多分僕がゲーム好きだったりゲームを作る会社にいたこともあってか、設定を先行して考える傾向があるんです。
カワグチ:というと?
まえだ:例えば、映画『君の名は』は設定が面白いじゃないですか。
カワグチ:そうですね。
まえだ:一方で例えば『宇宙兄弟』ってキャラクター自体がまず魅力的で、名前も覚えやすい。もちろん設定も面白いんですよ。
カワグチ:うんうん。わかりますよ。
まえだ:でも『君の名は』って、登場人物の名前がすぐに出てこないじゃないですか。あ、もちろんキャラクターもいいですよ。でもいざキャラクターの名前を聞かれたら覚えていますか?
カワグチ:覚えてないです。曲は覚えているけど(笑)。
まえだ:そう、そういうことなのかなと。僕の好きな漫画は、設定の面白さが強いものが多いんです。ゲームも「モンスターハンター」や「スプラトゥーン」みたいな設定がしっかりしてるほうが好きなんですよ。
カワグチ:なるほど。やっぱりゲーム好きですもんね(笑)。
まえだ:そうなの。だからそこは繋がってるなと自分でも感じています。元々はキン肉マンとかも好きだし。
カワグチ:いい意味で単純明快というか。
まえだ:まさに。
設定が面白いってことは、頭の中で遊べるんだよね。キン肉マンだと読者がこんな超人考えたとか。そういう読者が妄想で遊べるようなマンガを作りたいなと思ってる。
この対談から半年以上経って、考えがいろいろ進化した。やっぱり設定だけでは、成立しない。『約束のネバーランド』を読んだ時に、おもしろかったけど、この先は“あらすじ”を知れたらそれでいいと思ってしまった。あらすじを知っていても、どうやってそこに至ったかが読みたくなる漫画がいい漫画。『宇宙兄弟』でムッタとヒビトがいっしょに月に行くというのはわかっている。でも、それまでの感情が読みたいんだよね。だから、その設定も想像が広がるし、魅力に見えてくる。この時はなぜか「設定」に偏っていたなぁ。(前田)
※この対談は2018年の12月収録で、思考が日々アップデートされているので追記しました。
漫画の“心理描写”が好きなカワグチさん
まえだ:カワグチさんはどうですか?どういう漫画が好きとか。
カワグチ:いろいろありますね。うーん、でもあえて選ぶなら『キングダム』『BASARA』『銀魂』が漫画でトップ3ぐらい好きです。
まえだ:そうなんや。僕は、3つに絞るの難しいけど『ヒカルの碁』と『め組の大吾』と『ドラゴンボール』かなぁ。
カワグチ:おお。
まえだ:あえてバラバラなところ言った、...あと『ウイングマン』。
カワグチ:見事に読んでないな(笑)。好きな漫画が全然違いますね。
まえだ:そうなの?全部読んで無いの(笑)。!?
カワグチ:『ドラゴンボール』は読みましたよ。前田さんが漫画の設定が気になるって言ってましたが、それで言えば、私は、たぶん心理描写多めの漫画が好きなのかもしれないです。 『キングダム』は、駆け引きが多い心理戦なので。
まえだ:そっかそっか。
カワグチ:あ、でも『銀魂』は…(笑)
心理描写もだけど、ギャグが面白いな。
まえだ:『銀魂』は...設定かな?
あ、でも心理描写が好きな漫画もありますよ。例えば『め組の大吾』。 漫画でこんなに手に汗握った経験が初めてだった。
カワグチ:そうなんだ。
まえだ:主人公の第六感みたいな感じでピンチを切り抜けていくのが漫画っぽくて。漫画ってある種リアリティやと思っているから。
カワグチ:なるほど。
まえだ:『ヒカルの碁』もそうかな。『ヒカルの碁』は平安時代に囲碁の天才と呼ばれていた人(藤原佐為)が、主人公の小学生(進藤ヒカル)に幽霊となって乗り移る話。
カワグチ:ただの囲碁の話じゃないんですね(笑)。
まえだ:そうだよ!そういうSF要素も入ってて。だから、超一流のプロの囲碁棋士に「なんだ、あの小学生は!?」ってバレそうになったりするの。
カワグチ:主人公は囲碁もわかってくるのですか?
まえだ:わかってくるの。興味持って、自分でやりだすの。そういう設定の面白さと心理描写もあって凄く面白かった。
カワグチ:そうなんだ。漫画好き同士でも、意外と見てる漫画違いましたね(笑)。
ガールズイラストより面白系の方が向いていた(カワグチ)
まえだ:漫画の話するの楽しいわ。描く方も進めたいなぁ。僕ってどうしたら漫画上手くなると思いますか?
カワグチ:え!?まず、どんな漫画描きたいかですよね。
まえだ:うーん、キン肉マンみたいなの。
カワグチ:あ、絵もそんな感じですか?
まえだ:うん、絵も。
カワグチ:あ、絵も(笑)。
それやったらキン肉マン描いた方がいいですよね。
まえだ:わかった。キン肉マン描くわ。
カワグチ:うん、模写はいいって言いますよね。
まえだ:模写ね。あーそうそう、模写はする。
カワグチ:私はしたことない…いや、でもしてたかな?ジョジョとかはしてましたけど。
まえだ:えぇ?!全然違うやんタッチが(笑)。 なんで?
カワグチ:そうなんですよ(笑)。好き過ぎて描いてみました。今の絵は、自然と生まれた感じなんです。
まえだ:そうなんだ、昔から描いてたわけじゃなくて?
カワグチ:はい。私1番最初に何を血迷ったのか、ガールズイラストを描こうとしてたんですよ。
まえだ:へぇ、意外。
カワグチ:お花の女の子みたいな。水彩でね、描いてて。それで展示会とか出してた最初の頃。
まえだ:うんうん。
カワグチ:でもまあ、全然アカンくて。
まえだ:うんうんうん。
カワグチ:ガールズイラストって、ライバルがめっちゃ多いんですよね。仕事の需要の割にクリエーターさんが多い。 そのジャンルの先輩方から、「(私は)コミックエッセイが向いてる」と言われたんですよ。ギャグ漫画とか。
まえだ:あぁ、なるほど。
カワグチ:それで思ったんです。無理して、なんか違うタッチで頑張る必要なかったなと。
まえだ:うんうん。
カワグチ:そこから主婦系のイラストとか雑誌とかに営業行ったら、そっちの方がやっぱり仕事取れて。面白系ってことですね。
まえだ:なるほど。面白系のルーツはどこから来てるの?カワグチさんの。なんかお笑いが好きとか。
カワグチ:うーん…え?ありませんか?大阪出身ですよね?
まえだ:兵庫だから関西ではあるけど。うーん。そうかなぁ。例えばカワグチさんが僕と箕輪さんが登壇したイベントのレポート漫画に描いてくれたでしょ。で、箕輪さんのさらけ出している様を裸になって「すっぽんぽーん!」みたいな表現をしてたじゃない(笑)。もちろん裸になったわけではなくて、でもああいうのすごく面白いからいいなと思う。
「隙あらばゲームしたくてイラストレーターになりました。」
箕輪厚介×前田高志「死ぬカス」トークイベントのレポ漫画より一部引用
カワグチ:あー(笑)!
(2人とも笑う)
カワグチ:なんでしょうかね。ただ、どこかで「笑かしたろ!!」って思って描いています。
まえだ:「笑かしたろ」って思ってんだ、やっぱり。
カワグチ:思ってます。あとはなんかこう、なんだろな?「隙あら〜」もそうですけど、その時にリアルに感じたこと、思ったことを描くことを大事にしています。
まえだ:うんうん。
カワグチ:「隙あら」の当時は、イラストの道を周りに反対されたり転職を繰り返したりして、辛いこともたくさんありました。でもそれを、ブラックユーモアに描きました。すると読む人が笑い飛ばしてくれるんですよね。読む人が笑ってくれて、私も楽になる。
あ、これ、笑ってもらえて、カウンセリングもしてもらって、一石二鳥やなって思って(笑)。だから私は、面白さを大事にしています。人に伝える時は、面白くて楽しいのが一番ですから。
まえだ:それ、大事。面白くないとね。今日はお話できて楽しかったです。ありがとうございました。
カワグチ:こちらこそ、ありがとうございました!!
カワグチさんは、お金について楽しく知ることができるコミックエッセイ『ゼロからわかる お金のきほん』を出版されました。
そんな、カワグチさんが前田デザイン室9月定例会のゲストで登場してくださいます。ご好評につき一般枠チケットを3枚追加しました。お申し込みはこちらまで。
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