『スター・ウォーズ』の衝撃が自分のスタイルを作った。今村孝矢さんのクリエイティブの源泉
前田デザイン室では毎月ゲストをお迎えし、室長の前田高志さんと対談していただいております。
2023年1月21日、大阪にて定例会が開催されました!
ゲストは大学教授で元任天堂ゲームクリエイターの今村孝矢さんです。
今村さんのご経歴
「(任天堂時代は)やっぱりデザインの仕事が多かったね」と語る今村さん。
スーパーファミコンソフトの『F-ZERO』(1990年発売)から始まり、『ゼルダの伝説』、『スターフォックス』など著名なタイトルのアートディレクションなどをご担当されました。
その後も任天堂ハードの進化(ゲームボーイ、NINTENDO64、ゲームキューブ、ニンテンドーDS、ニンテンドー3DS、Wii U)と共にご活躍を続け…
30年間でデザインしたキャラクターは約100種類。メカなどを足すとなんと約150種類!
そして2021年、任天堂を退職。
任天堂退職後は、大阪国際工科専門職大学にて、デジタルエンタテインメント学科の教授として学生に指導する日々。
そして、漫画家デビューを果たしたり、新作ゲームのイラストを担当されたりと、クリエイティブな分野でさらなるご活躍をされています。
『OMEGA6』で漫画家デビュー
今村孝矢さん(以下、今村):(任天堂在籍時から)漫画家になりたいという話はずっとしていて、いつか出したかったんです。
前田高志さん(以下、前田):どれぐらいの期間で作ったんですか?
今村:2年くらいですね。iPad(アプリ:ibisPaint)で描いたからできたんですよ。紙とペンで描くのはとてもじゃないけど無理で、そこはデジタルの恩恵がありがたくて。
前田:漫画は日本でも買えるんですか?
今村:紀伊國屋書店経由で買ってくれた人がいますね、フランス語ですが。
ゲームのイラスト(ドット絵)を描きまくる日々
前田:今作ってるゲームも漫画と関係しているんですか?
今村:そう、漫画のキャラクターと世界観を使ったスピンオフ的な作品です。ハッピーミール株式会社というレトロなアドベンチャーゲームを作っている会社さんから声をかけていただいて。
『OMEGA6』もレトロフューチャーものなので、レトロというキーワードに合っている。それにアドベンチャーゲームというジャンルはストーリーを語りやすいので、キャラクターも認知してもらいやすい。それでお引き受けしました。
前田:いっぱい絵が必要になりますね。
今村:そうなんですよ(笑)。しこたま描いてて。
前田:しかもドット絵ですよね!
今村:なんとかiPad(アプリ:Procreate)でババババッと描けるように試行錯誤しました。
ゲームというより漫画の延長線上みたいな感じでやってますね。これはあえて低い解像度で描いてるんです。ガタガタッとした昔ながらのゲームの絵にしたいんですよ。
前田:これはNintendo Switchのダウンロードソフトになるんですか?
今村:そうですね、ワールドワイドで発売します。僕の作るものって割と海外ウケがいいので、雰囲気的にね。漫画もお子さんが喜んでくれてるし。
前田:今村さんとの相性がいいですよね。
納期を守って毎回70点以上を出す
前田:今村さんは任天堂時代含め、30年以上仕事をされてきたわけですが、(仕事をする上で)今でも大事にしていることはありますか?
今村:僕は作業がめちゃくちゃ速いんですよ、光の如く作品を作る。それは子供の頃からで、任天堂にいて培ったものではないのですが。
親父が漫画家だったんです、新聞の4コマ漫画とかスポーツ記事の挿絵とかの。その親父から一つだけ教わったのが「100点を出すよりも、納期を守って毎回70点以上を出すのがプロ」ということ。それはそうだなと、今だに思ってます。
100点だったら絵の上手い素人でも時間をかければ作れるわけで、それを限られた時間内で出すのがプロだと。ゲーム開発でもよくあることで、見切りが難しい。そこが僕は速いんですよ。
キャラクターを取り巻く世界観を考えてデザインする
(視聴者からの質問):キャラクターをデザインされる時、どのように考えて作られていますか?デザインする時の流れがあれば、教えていただきたいです。
今村:シンプルなデザインが好ましいと、学生には言っています。
キャラクターはそれに付随する情報によって、こういうやつなんだと分かってきて魅力を感じるわけです。取り巻く世界観があってこそ、キャラクターの魅力が作られるので。それはすべてのキャラに言えることです。
だから、ゴチャゴチャしたキャラって覚えてもらえないんですよ、似たり寄ったりになって。かわいいとか、かっこいいも大事だけど、なるべくシンプルでまずは人の心に残ってもらえるようなものを考える。その上で自分の個性を見つけること。
キャラクター単体では何も生まれない、そう心がけてデザインすることです。モブキャラ一個デザインする時も妄想でいいので、きっとこういうキャラだなとか考えながらやると、個性とか性格が現れてくると思います。
自分の内面を作品に反映する
前田:僕も漫画家になりたい時期があったんですが、キャラクターを出すことって自分の内面を出すことなので、そこで一番つまづきました。例えば、主人公を高校生にするとして、名前をつけるのが恥ずかしくて考えられなくて。
今村:CGをやってる学生によく言うのは、プロのイラストレーターとか漫画家ってのは自分の内面を売ってるんだよということ。自分の見せたくないところをあえてさらけ出して作品に反映できるからこそ、みんながすごいと思うわけで。そこがプロとアマの差だと。
前田:(漫画の)ネームの学校に3日間だけ行ったことがあって、一緒に授業を受けてる人にネームを見せてもらったことがあるんです。その人は「主人公はこういう名前で、こういう性格なんです!」って自信を持って言ってて、すごい!って思いました。
僕には絶対無理やと。ずっとデザインやってるけど、(デザインは)既にあるものに対してどう料理するかみたいな感じで、野菜を作るところからやってないから。それをやれる人すごいなって思いましたね。
ちょっと面白いを集める
今村:漫画やゲームとかで、面白いものを作ろうってよく言うじゃないですか。僕が常日頃から漫画を描く時でも、ゲームを作る時でもそうなんですが、「すごい面白い」ってかなりハードルが高いんです。
でも、「ちょっと面白い」なら割と考えられる。例えば面白いリアクションとか、そういうのをいっぱい作って集めるとすごく面白くなる。
前田:ちょっと面白いを集める。それ、めちゃくちゃいいですね。
今村:だから『メイド イン ワリオ』(※)とかびっくりして。
前田:ああ!確かに。
今村:同じこと考えてる、面白さの核をついてるなと思ったね。
三度の飯より好きになる
(視聴者からの質問):デザイナーやアーティストとして力をつけるために、今村さんが必要だと思うことはなんでしょうか?
今村:まずは三度の飯より好き、というくらいになること。例えば僕の場合、小学生の頃からイラストや絵が好きでずっと描いてたんです。
(大人になった)今から始めるならどうすべきか、これも学生によく言ってます。今の時代なら色々なツールがありますよね、例えば3DCGとか。普及してるとはいえ誰でもできるかっていうと、とても無理です。だから、そこそこ作れれば需要がある。そういうものを見つけて頑張ってほしいです。
衝撃を受けに行き、自分のスタイルを見つける
今村:あとは、自分のスタイルを見つけることですかね。
前田:『F-ZERO』(1990年)の時、すでに今村さんのスタイルじゃないですか。任天堂に入社してすぐですよね、もともとそうだったんですか?
今村:もともと高校生の時から、海外の番組が大好きで。
前田:それはどうやって辿り着いたんですか?
今村:小学校6年生の時に『スター・ウォーズ』が来たんですよ!もう衝撃が半端なかったんですよ!本当に。
当時はビデオデッキ(録画装置)がないので、一瞬だけ映るテレビの特番とかを死ぬほど集中して見てたくらい衝撃を受けて。いろんな雑誌の特集記事を集めては穴が開くほど見てましたね。
前田:『スター・ウォーズ』以前はどうだったんですか?
今村:SFは好きでしたね。レイ・ハリーハウゼンという人形アニメの神様って人がいて、小学生の頃から好きでした。『アルゴ探検隊の大冒険』という超名作があって、コマ撮りのアニメーションがすごい綺麗なんです。それがルーツといえばルーツですね。
前田:衝撃に出会うのが早かったんですね。何回も見てたんですか?
今村:ビデオデッキがないんでね、一回見たら次はいつ見られるか分からなかった。でも、それがよかったのかもしれないね、脳に焼き付けようと思って。今は物があふれてるからなかなか出会えないんですよ。
前田:どうやって衝撃を受けたらいいんでしょうね?
今村:なるべく(自分から)衝撃を受けに行くのがいい。例えば映画でも、全然興味ないと思ってたけど、見てみたらすごくよかった!ってことあるじゃないですか。まずは影響受けていいと思うんですよ。
昔テレビで見たんですが、南海キャンディーズのしずちゃんという芸人さんが『AKIRA』(大友克洋さんによる漫画)の模写をしていたんです。それがめちゃくちゃうまい!もうびっくりしました。好きで好きで好き過ぎて、ついに真似して書き出したんでしょうね。そういうのに出会えると幸せですね。
まずは模倣から始めてください、そして自分流になるくらい真似する。100%真似することはできないけど、それを追うと自分の個性が入ってくるというのはあるので。
歴史的なものを取り入れる
前田:今村さんのアイデンティティ(個性)はどこから来てるんですか?
今村:手法的なことだと、若い人は最近のもの、みんなの記憶に残っているものを真似しがちなんですよ。僕はそうではなく、もっと古い歴史的なものを取り入れます。
例えば『OMEGA6』のストーリーはアダムとイブ、ノアの方舟、ダビデとゴリアテとかを取ってつけた話なんです。なぜかというと、その辺をベースにすると世界で理解してもらえるんですよ。あまり入り組んだ設定にすると日本だけで受けて、世界では受けません。
前田:流されない力と言いますか、任天堂在籍時から今村さんはずっとご自身のスタイルを貫いてますよね。
ゲームディレクターの心得
(観覧者からの質問):ゲームの専門学校に通っています。ゲーム制作ではディレクションをすることが多いのですが、個性が出せず、オリジナリティに欠けてしまうことが多いです。
今村:ディレクターの心得ということだね。
現実的な話をすると、どんな形でも一本商品を作れたらたいしたもんですよ! 商品一本作るってめっちゃ大変でしょう。完成させて「自分の作品だ!」と堂々と言えるのはディレクターなんですよ。
あの人のアイデアは面白そうだけど、自分の考えは曲げたくないとか、そんなプライドは一回捨ててください。あまりミニマムなことにこだわらず、柔軟に嫌われ者をやりながら、うっとうしがられながら、つらい思いしてこそだと思っています。
やってる時は一番しんどいですけど、できてからの満足感は(ディレクターが)一番大きい。永久に名前が残るし、ゲームを作ってもらいたいという話が来るかもしれない。だから、ちゃんとしたものを仕上げること。予算の都合とかでやりたいことができないなら、バッサリ切って残った中でもなんとか面白くなるようにする。
世の中にはゲームがたくさんあるから、見よう見まねでいいんだよ。このゲームはUI(ユーザーインターフェース)の反応がいいなって思ったらちょっと真似する、細かいところはね。そういうことを積み重ねていってください。
おわりに
今村さんから、クリエイティブの世界で活躍するためのアドバイスを直接いただいた貴重な時間となりました。
今村さん、前田さん、ありがとうございました!