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「グラフィックデザインの価値とは?」草野剛、前田高志 対談

5月30日、前田デザイン室の定例会が、オンラインで開催されました。今回のゲストは、アニメ・漫画・ゲームなど幅広い分野で活躍する、グラフィックデザイナーの草野剛さん。

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その定例会の様子をレポートします。

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(左:前田高志さん、右:草野剛さん)

草野剛さん (以下、草野さん)

1973年生まれ、東京在住。株式会社アスキーから独立し、2003年に有限会社草野剛デザイン事務所を設立。主にアニメーション・漫画・ラノベ・ゲームという分野でグラフィックデザインを担当しており、『交響詩編エウレカセブン』『鋼の錬金術師』『アイドルマスター』『Re:ゼロから始める異世界生活』等のデザインワークを手掛ける。武蔵野美術大学で非常勤講師も務めている。
同人活動も積極的に行っており、メカニックデザイナー・キャラクターデザイナー、そしてアートディレクターでもあるコヤマシゲト氏と「同人サークルCCMS」を運営。また、作家の長谷敏司氏やイラストレーターのredjuice氏と共に「アナログハックOR」を運営し、本の装丁なども手掛けている。

草野さんは、前田デザイン室室長の前田高志さん(以下、前田さん)が憧れるデザイナーの一人。草野さんがオンライン授業「Schoo」で講義をされた後のツイートに、前田さんが勇気を出してコメント。すると、評論家 宇野常寛さんの番組に前田さんが出演したのを、草野さんも見ていたそう。
そして「会いたい」と話が進み、今回のゲストにお招きすることが実現しました。


草野剛デザイン事務所の、仕事の流儀

草野さんの事務所は、仕事の受け方が特徴的です。草野さんが初めの窓口になることもあれば、他の方が窓口になることもあるそう。デザイナー各々がクライアントとしっかりミーティングをしているので、誰が窓口に立っても信用が落ちるとは思えないと仰っていました。新入社員もベテランも分け隔てなくデザインを担当。掃除や管理も、皆がシェアをしあい、共同体となってデザイン作業を進めていくそうです。

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前田さん:失敗もあるじゃないですか。それはどう思いますか?
草野さん:残念ですね(笑)。言葉足らずですみません。僕の脇が甘い点が原因であり、問題。


グラフィックデザインの価値とは?

草野さんから前田さんに聞きたいことがあるとのことで「グラフィックデザインの価値を再確認したい」という、深いお話に。「外観を整えることは一部分にすぎない」話がよくあるけれど、でも、その表情の中にUI/UXも含まれている。書籍だろうとパッケージだろうと、メディアに情報が貼られているだけ。良いデザインは複雑な要素がブレンドされた状態が佇む。一体その要素とはなにか。触れたときの喜びや感動について伺いたい。そんな問いから、始まりました。

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前田さん:僕は会議室でウンウン唸って「これじゃないですか?」と人にきいて「ああ、それそれ!」と言われるものがデザイン、と色んな人に伝えてます。僕がデザイナーとしてずっと憧れていた人はセンスの塊みたいな人でしたが、僕もその人みたいに、感覚的にいいものを選べる人になりたいと思っています。「良いデザインは、良い」みたいな(笑)。後から調べたら、論理的かつ科学であったりして。それが究極ですよね。論理的に説明できなくても良いものを作れば誰かが論理的解釈を後付けしてくれたりするんですよ。だから、「良いってなったらオールOK」なんです。

草野さん:提案が先だったんですね。

前田さん:デザインって、思考と造形で出来てるじゃないですか。一般的には思考が先だと思うんですけど、造形が先でも良いと思ったんですよね

草野さん:最近、小学6年生の息子の教科書を見ていたら、まさにそんな話が……。思考よりも、運動が速いっていう。「私たちの脳は、体の動きを読み取って、それに合わせた心の動きを呼び起こします。」と…。口を横に開いた状態は、笑顔と似ている。実験の参加者は、自然と愉快な気持ちになっていた、つまり、脳は表情から「自分は笑っている」と判断し、心の動きを引き動かしたということです。


良い企画とは

デザイナーのGive&Takeについて、「Giverに見せかけたTakerが多い」、という草野さん。一見誰かにGiveをしているようで、実は反応が返ってくるのを待っている。だからこそ、Give&Takeを成り立たせる必要があるといいます。そして、そこから良い企画とは、という話になりました。

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前田さん:『マエボン2』という雑誌を作っているときに、僕が編集長に言った言葉なんですが、「良い企画とは、幸せになる人を増やすものだ」と言っていて。似たようなことを、同じ任天堂の宮本さんも言っているんですよ。「アイデアは複数の問題を解決することである」と。

草野さん:良い企画は、皆を幸せにするって良いですね!
ポケモンカードの企画で、みんなが幸せになるようなキャンペーンがありました。1500円以上カードを買うと、ホログラム加工された、キラキラするカードがもらえる、というものでした。コロナ対策によって、イベントが全て中止になるなかで、皆で少しでも楽しもう!という、ショップとプレイヤーの気持ちを考えたメーカーからの提案です。緊急事態宣言が発令されてなかったタイミングに、すごい良い企画だと思いました。
「アイデア」は当たり前ではない。前田さんには、任天堂イズムがあると思う。皆が幸せになる企画を提案することは、難しい。でも、「私がやっても状況は変わらない」と考えてしまうことも。だからこそ、常に思い直すことは重要だなと思います。僕も、そのようにありたいです。


陽キャと陰キャ

「僕から言わしてもらうと、前田さん陽キャだから!」笑。という、自身を陰キャと称する草野さんの発言。コメント欄では、笑いが起きました。そして、そこからは自己肯定感、前田さんのキャラクターの話に。

草野さん:語弊がありますが、陽キャは敵だと思ってました(笑)。陰キャの僕は自己肯定感が低いんですけど、陽キャは高いんです。それが辛い(笑)。

前田さん:自己肯定感とかは、変わりましたね。変わったというか、元々あったんですよ。いつの間にかレイヤーが乗っかってたんですよね、任天堂の。褒められなかったんですよね。

草野さん:そうなんだ。

草野さん:でも、言葉を象徴的にデザインしたり、プロジェクトの提案が上手。皆で取り組むべきテーマも作る。そんなデザインも、前田さんは得意で。皆できない…と、思うんですよね。それには、前田さんというキャラクター(人格)も含まれている。なんか、ずるい(笑)。

前田さん:僕、水野学さんと会ったんですよ、一昨年。トークイベントで紹介してもらって、その場では同等位に紹介してもらって。僕、前にグッドデザインカンパニーを受けてるんですよ。でも、その時入ってたらちゃんと会えなかったと思っていて。佐渡島さんとかが、「水野さんくらい実力があるのに、新しいことに取り組んでて良いですね」と言ってくれて。そういうのが、僕らしいと思いますね。

草野さん:佐渡島さんからすれば、水野さんも前田さんもデザイナー。
前田さんは、自分から仕事を作り出すこともある。つまり、佐渡島さんの意見は正しい。でも、デザイナー同士だと比べちゃいますよね。


質問

最後に、草野さんへの質問コーナーもありました。

【質問】商品などのデザイン制作クレジットに、会社名だけでなく個人名まで掲載されていると、デザイナー一人ひとりの実績も大切にされている会社なのかなと感じます。草野剛デザイン事務所さんが携わったデザインのクレジットも、個人名まで出されているものが多い気がしますが、会社という体制でありながら、どうして個人名まで出すようにしてらっしゃるのか、お聞きしたいです!

草野さん:良い質問ですね。草野デザインの半数は、武蔵野美術大学の非常勤講師をしている際、僕の講義を選択してくれた生徒なんです。ビジネスファーストではなくて、それぞれの成果と成長を整える場として期待しています。
全員で案を出してクライアントに提出。採用された人間がプロジェクトを進め、支払いまで担当します。そうすると、クライアントと共にその人がいられる彼らにクライアントがつく。そのために、名前を出す必要があります。皆がデザインで社会と繋がっていくのが私の目的なので、個人の名前は大事なんです。個人の名前を奪うのは、千と千尋で言う湯婆婆みたいなもの。
申し訳ないのが、この方法はあまり儲からない…。皆で同じことに向き合うので、非効率なんです。複数の提案がある状態、デザインのプロトタイプを確認・比較することは有効で、プロジェクト・クライアント・デザイナー共に学びがあります。
自分だけでなく、他者も含めた経験やノウハウが蓄積されるので長い目でみた場合、それぞれの生存率や耐久性が上がると考えています

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【質問】もし草野さんがデザイナーではなく他の職業を選べていたとしたら、何になっていたと思いますか?

草野さん: 僕、何にもなれなかったんじゃないかな。本当にラッキーにラッキーが重なって、今があるから。小学生の頃は漫画家や画家もなりたかったけど、なれるものではないと思っていました。熱中できることが才能です。デザインへ興味が向くきっかけのルーツは、ビデオゲームでした。ルーズな消費者でしかない僕にとって、唯一の生産的な行為。ビデオゲームとMacintoshが、僕を救ってくれました


デザインについてのお二人の熱い想いが、画面越しにも伝わってきました!
草野さん、貴重なお話を聞かせて頂き、ありがとうございました。


レポートだけで書ききれない内容は、前田デザイン室内で配信されている映像をご覧ください。前田デザイン室はこちらから。現在、増枠はしておりませんが、退会者の枠が、若干開く可能性があります。



テキスト・バナーデザイン:林潤
写真:かもゆうこ
監修:浜田綾、前田高志、遠藤良二、前田真里

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