観察が発見を生み、発見がアイデアを生む、プロダクトデザイナー大村卓が語る「アイデア」の作り方
2019年8月24日。前田デザイン室の定例会が、渋谷のCAMPFIREにて行なわれました。
今回は、前田デザイン室の新しいプロジェクトパンツのガチャガチャ #PAN_CHA のお披露目、外部参加枠を設けた久しぶりの定例会ということでリッツパーティの懇親会など見所盛りだくさんありました。この記事では、定例会のメインコンテンツである登壇者お二人のトークセッションにフォーカスを当てます。
今回のゲストは、「#企業のノベルティを勝手に作る」でツイッターで人気を博しているプロダクトデザイナーの大村卓さんです。
〈Profile〉
大村 卓(おおむら・たく) プロダクトデザイナー。東京工業大学建築学科から同大学院を修了後、建築設計事務所ワークステーションにて勤務。建築金物メーカー、株式会社ユニオンでデザイナーとして勤務。2009年、デザイン事務所「oodesign」を設立。現在は主に身の回りの雑貨類のプロダクトデザインや、自社のオリジナル製品開発に取り組む。
大村さんと前田さんは、今日が初対面。前田さんが大村さんを知ったきっかけは、ツイッターだそうです。そして「この人、発想が完全に前田デザイン室だ」と思い親近感を持ったことがきっかけで、今回の定例会へのゲスト参加オファーに繋がったのだとか。
ちなみに大村さん曰く「喋ることはそれほど得意ではない」「こういったトークイベントに出る機会もあまりなかった」とのこと。というわけで貴重な会となりました。
「頭の片隅に浮かぶアイデアを発信」驚くほど似ている二人の共通点
大村さんは、もともとは建築のお仕事をされていました。今から10年ほど前のあるとき「会社以外で作りたいものを作ろう」と思い33歳でフリーランスになったそうです。大村さんは、普段は生活雑貨のデザインをしたり、オリジナル製品を作っていらっしゃいます。
大村さん:企業ノベルティを作るようになった経緯に、特に深い意味はないんです。仕事をしていると、どんどん余計なアイデアが思い浮かんでくるので、それをネタ帳に溜めてたんです。でも「やっぱりどこかに出したいな」と思って、人知れずツイッターに発信し始めました。
前田さん:驚くほど僕と同じなんですよね。僕も仕事をする中で日々浮かんでくる「頭の中の引き出しの中のアイデア」を外に出したくて。それで前田デザイン室を作ったんです。大村さんと僕は違うところは、「一人で作れたかどうか」。僕は作れなかったんですよ。ずっとドラクエやるほうが楽しかったです(笑)。でも夜になったら後悔する。そんなことを繰り返して悶々としていた会社員時代でした。
大村さん:ものづくりをするときは、可能かどうかは別にして、思いついたものをとりあえず出します。完成度は低くても、とりあえず出してそのネタに手を挙げておくのが大事だと思っています。
前田さん:それは前田デザイン室でもよく話すことで、完成度を意識せずにとりあえず思いついたものを垂れ流すスタンスでやっています。完成度を意識すると、途端に動けなくなってしまいますもんね。
ここから、大村さんの代名詞でもある #企業のノベルティを勝手に作る のプロダクトを紹介していただきました。
(大村さんが手がけたプロダクトの一部)
#企業のノベルティを勝手に作る シリーズの紹介
キングジムのペーパーウェイト
たくさん紹介していただいた中から、いくつかを掲載します。
大村さん:「キングジムのファイルの背表紙の四角のマークって何なんだろう」って、日頃から思っていました。するとある時、四角がニュッて飛び出してきたんですね。もちろん、イメージの中で。
キングジムは文具の会社なので、「もしかしたらこの立体はペーパーウェイトなんじゃないか」と勝手に設定を仮定してみました。
大村さん:ツイッターで発信してみると結構反応があり、調子に乗って発信を続けてしまいました(笑)。「いいね」がたくさんつくと嬉しくて(笑)。ここから本業そっちのけで、いろいろ作りました。
PDFのハンガー
大村さん:一番反響があったのは、PDFのハンガーですね。ものすごくバズったからうれしさを感じる反面、世界的な企業であるアドビから怒られるのではないかという不安がありました。
大村さん:予想に反してかなり気に入ってくれていたようで「実際にハンガーを作る過程を連載記事にして欲しい」という依頼につながりました。
こちらが、大村さんが実際に連載したコラムです。
ボンカレーの皿
前田さん:これ、好きなんですよ。
大村さん:前田さんが好きとおっしゃっていたので、持ってきました。ボンカレーって、パッケージはなんどもリニューアルされてるんですけど、この丸い同心円のマークだけは昔から残っているんですよね。これを見て、「カレーだから......皿かな」と。いくつかのサイズの皿でバラバラにできそうに見えたので、カレーとサラダと福神漬けとか用途別で使えそうな皿にしてみたものです。
JRのタブレットスタンド
大村さん:JRのロゴを見ていたら「すごく(何かを)支えることができそうだな」と思って(笑)。作ってみるとやっぱり安定していました。日本のインフラを支える会社のロゴは、安定感がありますね(笑)。
JRは会社ごとに決まった色があるから、それを全部作ったんです。でも、あえて一つだけを作らなかったんです。それは、作らなかったことで鉄道が好きな方々に騒がれたらそれなりに話題になるかなと(笑)。そしたら案の定話題にしていただけました。
前田さん:なるほど!策士ですね(笑)。
Twitterのみかん皮むき
大村さん:これは「Twitterの鳥がなんだか飛び出しそうだな」と思ったところが出発点です。「じゃあ、飛び出した鳥は何をするんだろう?」と考えた結果、みかんの皮を剥いたらどうかなと。みかんの皮を剥く道具で、鳥形のものはこれまでもありましたが、それをTwitterのマークにしたら面白いかなと考えました。
前田さん:僕も、以前Twitterのマークで鳩サブレを作って「食べられるTwitter」を作ろうとしたことあります。提案するまでで頓挫しちゃったんですけどね。これはどんな経緯で作ろうと思ったのですか?
大村さん:「みんなが知っているかどうか」を入り口にしています。この「企業のノベルティを勝手に作る」の企画自体をTwitterで発信しているので、「これを見ている人は全員知っているマークだよな」と。
実物も、持ってきていただきました。
大村さんがまとめているモーメントで、これまでのアイデアの一覧を見ることができます。
大村さんが作るオリジナルプロダクト
大村さんが、仕事として手がけてきた案件もたくさん紹介してくださいました。その中からも一部を掲載させていただきます。
水に浮かべる一輪挿し
大村さん:僕は花にあまり興味がなくて、いただいた花を洗面器にいれていたら枯れてしまいました。花にももらった人にも申し訳ないなと思ったのがこのプロダクトを作ったきっかけです。
水に花を立てるにはどうすればよいかということで、最初は発泡スチロールのような板に花を挿して浮かべてみました。でもそれでは花より板のほうが目立ってしまうので透明な素材にしました。より自然な状態に見えるように花を挿したところから広がる波紋のような形にしていきました。
せみうちわ
大村さん:セミの羽が落ちていて透明できれいだなと思ったんです。このまま大きくしたら「うちわ」になるのでは?と考えました。試作して家に持ち帰ると妻からとても気持ち悪がられたのですが、ツイートしてみたら予想以上の反響がありました。ということで、夏が終わらないうちにと思い販売しました。
前田さん:日常から常に観察しているんですね。だってセミの羽を拾って「綺麗だな」って思ったから、ここにつながっているんですもんね。日常のふとしたことに気づくか気づかないかですね。
多くの人の共感を呼ぶ「アイデアの作り方」
多くの人が「これ面白い!」と思わず共感する、プロダクトを次々と閃く大村さん。その発想の過程、思考のプロセスに前田さんが迫ります。
<「嫌だ」を排除、絶えず思考が流れ続ける>
前田さん:先ほどの一輪挿しの話だと、思考が流れ続けていることが印象的でした。
洗面器で花が枯れたから嫌だ→
板に花を挿そうとしたけど不自然だから嫌だから透明に→
それでも違和感があったから、水の波紋に花を生ける形にしたんですよね。
「嫌だ」という感情が思考の流れを作っているんですね。ものづくりにおいて「思考が絶えず流れる」ってものすごく大事だと思っています。
大村さん:僕も他においては止まっていることもありますよ。でもものづくりにおいては流れています。
<意味は度外視、形として見る>
前田さん:メモはしますか? 僕がロゴをつくるとき、例えばルイヴィトンなら「L」「V」「高級感」とかメモをしたり、印象を書き出しているんです。
大村さん:ロゴをつくるときはそうすべきだと思うんですけど、僕の場合ロゴを使ってプロダクトデザインをしているので、あえてそこは切り離します。意味や帯びている印象は度外視して、ただ形として見るんです。そしてそれがどういうものになったら意外性があるかなとかを考えますね。
<元のロゴの形を活かす>
前田さん:スケッチはしますか?
大村さん:します。でも、元のロゴからかけ離れるような複雑な操作はしないことにしています。複雑な操作を加えて無理やり立体性を出してしまうと、そのロゴじゃなくてもよくなってしまうので。そのロゴの形がただ押し出されただけとか、そういうシンプルなイメージです。
<イチをこねくり回さず、ゼロイチを繰り返す>
前田さん:思いつくまでに、どれくらい時間かかるんですか?
大村さん:早いものは数分ですけど、長いときは1ヶ月くらい頭の中に寝かせることもありますね。
前田さん:僕はグラフィックだけですけど、すぐに思いつかなくて、「うーん......」と考えて出した案ってあまり良くなかったりするんですよ。大村さんはどうですか?
大村さん:1つの案をひたすらこねくり回したものは、うまくいかないことが多いですね。考えるときはいつも、案をどんどん捨てていくんです。捨てていくなかでピンと来たものを形にしています。
前田さん:なるほど。できたイチをこねくり回すのではなく、ゼロイチをとにかく繰り返すわけですね。ゼロイチを繰り返すなかでポンと生まれると。
大村さん:そんなイメージですね。
<ものづくり欲求の発散、発想の瞬発力をあげるトレーニング>
前田さん:企業ノベルティを勝手に作るシリーズで、仕事につながることはあるんですか?
大村さん:ありますね。「うちの企業も作ってくれ」と。でも、それを目的にはしていません。ものづくりしたい欲求の発散や、繰り返し行うことで発想の瞬発力を上げるためのトレーニングとしてやっている部分がありますね。
前田さん:なるほど。前田デザイン室では「クリエイターストレスの発散」と言っています。それにも通ずるものがありますね。
<頭の中ではよくても、作ったら面白くないこともある>
前田さん:以前、大村さんの記事に「試行錯誤」ってあったんですけど、ここに至るまでにどんな試行錯誤があったんですか?
大村さん:そうですね。最初、頭の中では「これいける!」ってノリノリで作るんですよ。でも実際に作ってみると、「なんだこれ、全然おもしろくないな」っていうこともあるんです。
前田さん:あぁなるほど。たとえば、ボンカレーとかもそうですか?
大村さん:ボンカレーは割とうまくいったほうです。たとえば失敗したときは、そこから練り直すこともあるし、もうそのマークで作るのをやめちゃうこともあります。頭の中にある時点ですでにおもしろくなさそうなものは、最初から作りませんけどね。
<知名度が高く、形がシンプルなロゴを探す>
前田さん:どんな順序で作るんですか? たとえば、ボンカレーは「ボンカレーのマークで何か作るぞ」という構えて入るとか、何気なくボンカレーを食べていてボーっと見てるときに浮かんでくるとか。
大村さん:ボンカレーに限らずなんですけど、まず前提として、人が知っているロゴじゃないと、「そもそもそのマークって何?」となってしまうんですよね。作ってもダメなんですよね。なので、「知名度が高いロゴ」を探します。次に、「形ができる限りシンプルなもの」を選ぶんです。それに当てはまるロゴをいろいろと集めて、そのなかから作るものを選びます。やっぱり、「みんなの知っているアレが、こんなふうになったぞ」っていう変化に、みんなおもしろがってくれるので。
<「発見」を入れる、リサーチを念入りに>
前田さん:ものづくりするときの方法論ってあるんですか?
大村さん:方法論というか、やるからには必ず一つ発見を入れます。今までのものとは違うものにするための何かです。見え方なのか、機能なのか、素材なのか、何を変えたら新しく見えるかを常に気にしています。全く見たことない完全に新しいものだと、逆に伝わらないんですんです。みんながなんとなくその形を知っているけど、改めてみたらハッとするかどうかを意識しますね。
あと作る時は、まずリサーチします。自分が思いつくものは、だいたい他人も思いつくから。一生懸命作ってからあとで、他で誰かが作っていることを知ったらショックが大きいですからね。
前田さん:みんなが知ってるもので、思いつきそうで思いつかないの絶妙なものを作っているから共感されるんでしょうね。
まさかのサプライズ!大村卓さんが前田デザイン室のロゴをプロダクト化!
前田デザイン室のロゴを使ったプロダクトを考えて来てくれたと、大村さんからのまさかのサプライズが。会場が、どよめきました。
前田さん:さっき控え室で「前田デザイン室のロゴでプロダクトデザインをしてほしい」って無茶振りのつもりで話をしてたんですよ。もう作ってくださってたんですね。嬉しい!
大村さん:さっきは、あえて言わなかったんです。だから控え室では、口ごもっていたでしょ(笑)。
このロゴが最初はこれが何かわからなくて。でも聞いたらバレちゃうから聞かずに考えました。考えてみると、「家かな?」と思ったんですが、だとしたらそこは避けたほうがいいなと思って別の案を考えたんです。
(前田デザイン室のロゴ)
前田さん:はい、家です(笑)。
大村さん:見方を変えれば消しゴム、クレヨンにも見える。でも消しゴムにしては普通だし、クレヨンだと太くて短いから嫌だなと。
(消しゴム、クレヨン案)
大村さん:じゃあ宝箱にしてはどうかと考えました。無理やりストーリーをつけるなら「前田デザイン室という箱は宝箱のようにいいものがたくさん詰まっている。開けてワクワクする箱のような存在だ」という感じです。それで今回、実際に作ってみました。
(ワクワクが詰まっている宝箱!)
大村さん:宝箱なら鍵も必要かなと思って、つけてみました。
(鍵つきの宝箱!!)
会場から、歓声が沸き起こりました。
前田さん:……感動です。いやあ、欲しくなります。本当にありがとうございます!実際このロゴには、何が飛び出すかわからないみたいな何が飛び出すかわからないビックリ箱のような「箱」の意味もあるんです。
大村さん:そうだったんですね。最初は鍵はなかったんですけど、箱だけだとさみしいかなと思って。
前田さん:鍵に使ってもらっているハートは「童心くん」という名前です。「永遠の童心」が、前田デザイン室のクリエイティブテーマなんですよ。だからハートがニヤッと何か企んでいるような顔をしてるんです。童心くんが、前田デザイン室の箱を開ける「鍵」になっっているなんて、ストーリーとしても最高です。僕、このロゴ見ても、屋根と家の間の白い部分を用いた包丁研ぎにしか見えないですもん(笑)。
(実物も持ってきていただきました!!)
大村さん:まあ、できるだけ前田デザイン室に関係あるものがいいかなと思ってこれにしました(笑)。
前田さん:いやあ、でもこれは嬉しいですね。素敵なプレゼントと貴重なお話をありがとうございました。
大村さん:こちらこそ、ありがとうございました。
・日頃からの観察がアイデアを生み、絶えず違和感を排除し思考の流れをつくる
・新しいだけでは共感されないから、みんなが知っているものを選び、少し変化させて新しい発見を提案する
大村さんのものづくりの思考に触れることができた2時間でした。大村さん、貴重なお話をありがとうございました。
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【10月度定例会開催します!】
次回の定例会は10月26日(土)19時より東京にて開催が決定!!今回は内容もゲストも秘密のクローズドな会となります。気になる方は前田デザイン室へ。一般メンバー枠は満席ですが、新しく設けた「ガチデシ枠」「クライアント枠」での入室が可能です。
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テキスト:金藤良秀
編集:浜田綾
監修:前田高志
写真:惣島厚、タケウチマキ、かもゆうこ、ツチダマミ
バナーデザイン:杉元恵子