出版もカフェ経営も「けっきょく、デザインりょく。」 寺本恵里さん × 前田高志さん
2022年11月19日、大阪で前田デザイン室11月定例会が開催されました。
ゲストはingectar-e(有限会社インジェクターイーユナイテッド)代表の寺本恵里さん。
寺本さんと前田さんは同い年(対談時、お二人とも45歳)ということもあり、意気投合されているご様子。前田さんのジョークなども交えつつ、和やかな雰囲気の中、対談は始まりました。
デザインのこと、出版のこと、カフェのこと、経営のこと、そして人生のこと。話題は多岐にわたりましたが、それぞれについて深く、そして分かりやすくお話してくださいました。
1年でこんなに!デザイン初心者から経験者までおすすめできる本を出版
前田高志さん(以下、前田):今、ingectar-eさんが出版されている一番有名な本って『3色だけでセンスのいい色』ですか?これが一番売れたんですか?
寺本恵里さん(以下、寺本):はい、17万部売れています。
前田:すごい!なんでそんなに売れたと分析してますか?
寺本:色って無限にあるので選べないし、あわせるのが難しい。その悩みを解決する本なので。
前田:たしかに。悩んでいる人が多いんだ、色で。僕自身もそうだったので。
寺本:私自身もそうでした。あと、本当に色だけでデザインのセンスが良くなるという面がやっぱりあるので。
前田:なるほど。
寺本:そして、その第二弾。『3色だけでセンスのいい色PART2』が11月22日に発売されます!
(観覧者一同):おお〜!!
前田:PART2は1とはどう違うんですか?
寺本:新しい色になっています。1と同じでセンス良くできる3色の配色がたくさん入っているのですが、情緒的な色だったり、平成レトロというテーマだったり、今っぽい色を入れています。
コンセプトも味も、めちゃくちゃこだわったカフェを経営
寺本:カフェについては、ROCCA & FRIENDSというお店が高槻市にありまして。
「旅する紅茶とベイクショップ&カフェ」というコンセプトで、「旅する紅茶」という紅茶のデザインをしたり、野菜いっぱいのランチを企画したり。また、ROCCA & FRIENDS CREPERIEというクレープ屋さんも高槻駅前でやっております。
前田:ユナイテッドカフェ(6+E UNITED cafe ※現在は休業中)は過去に行ったことがあるのですが、あそこも世界を旅する系のコンセプトですよね。
寺本:そうです。私自身旅がすごく好きなので、旅をテーマにしてカフェを始めました。最近は、FOREST GREENというご飯系のパスタとかハンバーグとかのカフェをやったりしています。
前田:カフェは雰囲気だけじゃなくて、めちゃめちゃ美味かった記憶があって。その辺もこだわっているんですか?
寺本:はい。味はこだわってめちゃくちゃ試食もしてます。
良い出会いを掴み、インジェクターイーユナイテッドを設立
前田:(フリーランスになる前に勤めていた)デザイン制作会社は1社ですか?
寺本:3、4社は行ってますね。最後の会社で社長のセミリタイアと同時にフリーランスになったという感じです。結婚したというのもありますね。
猛烈に仕事をしていたので、結婚してからはのんびりフリーランスをやっていたんですけど、そこでインプレスさんなど出版社さんとの出会いがあり、一冊目の本(『デザインパーツ素材集 かわいい花&フルーツ』)が2010年に発売されました。
前田:出会いというのは具体的には何が?
寺本:インプレスさんは年賀状の素材集を毎年10月に出されていて、それにクリエイター募集と書いてあったんです。私はイラストの仕事をしたかったので応募しました。
前田:出会いというのは偶然ばかりじゃなくて、自分から行ったと。
寺本:そうです。年賀状の仕事をいただいて、また翌年もいただいて。すると、編集さんから突然「本を書きませんか?」とお声がけがありました。
その後、「2冊目もお願いします」となり、その本(『大人可愛い素材集 味紙とヴィンテージな雑貨たち』)が結構売れて、ご好評いただいきました。
寺本:それで、当時はリビングの隅で仕事をしていたのですが、お客さまにお越しいただけるようにビルの3階をデザイン事務所にしようかと思って、そのときに半分カフェにしてみようというのを考えたんですね。
前田:それがユナイテッドカフェに?
寺本:そうです。14坪なんですけど、一人なので(広いので)半分カフェにしようかなと。個人事業主のままだとアルバイトさんや店長さんになってくれる人は来ないだろうということで、法人化しようと。それがきっかけで、インジェクターイーユナイテッドを設立しました。
(視聴者からの質問):法人化する時に、異業種である飲食業も始めるのは結構勇気がいることかと思います。最初のカフェ開業されるまでにどのように準備されたかお聞きしたいです。
寺本:最初のカフェはDIYで手作りで作ったんですよ。そのときのデザイナーさんがDIYもできる人で。半年間くらい、本の仕事とかクライアント案件とかやりながら、半分はDIYしてるという(笑)。
前田:創業資金は公庫で借りたりしたんですか?
寺本:そうですね。今一番思うのは、法人化するときに税理士さんが良い人でないと絶対厳しいということ。良い税理士さんとの出会いは本当に会社に関わることだと思うので。
前田:良い税理士さんとは?
寺本:そうですね…。私の税理士さんはうちのブランドのファンでいてくださって、社長(私)を上げるような感じで、肯定してくれる。
前田:めっちゃわかる、うちも一緒ですそれ!
寺本:会社の数字をわかってくださっている方が「行きましょう!」といってくれるのは本当に社長として勇気をもらえる。カフェも行ってくれて、店の名前も絶対間違えなくて。この税理士さんじゃなかったら無理だったなと思います。
前田:良い出会いの確率がすごいですね。
寺本:はい、ありがたいです。
人生を「年」ではなく「回」と捉え、種をまいてきた
寺本:法人化したのは36歳のときなのですが、私は人生を「年」ではなく「回」と捉えているんですね。例えば30代って10年間ありますよね?でも、10年あるって漠然とするじゃないですか。
前田:めっちゃ長く感じますね。
寺本:10年後って想像できないですよね。めっちゃ長く感じると思うんですけど、私は10回だと思っているんです。私は今45歳なんですけど、私の40代はあと5回しかないと思っているんですよ。それを5年って思ったら…。
前田:重みが違う!
寺本:めちゃ長いんですよ。漠然としちゃう。
でなくて「5回」なんですよ。2022年は「1回」なんですよ。その1回で何やるか!って考えたほうがいいよ!というお話なんですけど。
前田:30代前半なんてまだまだ人生長いって思うけど、後半になるとめちゃくちゃ焦り出すんですよ。前半を一回一回大事に生きていたら、後半生きてくる。
寺本:一年も12回だと思っているんです。12ヶ月とか1年って捉えてなくて。「12回か」と思っていて。
前田:今年あと2回しかないですよ(※ 対談が行われたのは11月19日)
寺本:そうなんです、時間感覚じゃなくて回数。あと1回でこれやろう!みたいに思っていると自分の人生も設計しやすいかなと。例えば、30代3回目くらいで結婚しようとか、これを身につけようとか、回で捉えると人生が漠然としないと思います。
前田:捉え方がすごいですね。
寺本:36歳の時に事業計画を立てて、1年目、2年目、3年目…と出していく時に、それが回にみえたんですね。そうすると10回目で(売上が)10億円くらいいってないと、面白くないやん、ということに気づいて。そこから逆算していくんですね。
前田:物語の1回とか、1話とかでもいいかもしれないですね。例えばドラマって10話か11話で終わるけど、最終話でエンディングを迎える感じに変わっていないと、何これ?ってなっちゃいますもんね。
寺本:毎年、種をまいておかないと2年後、3年後に広がるわけがないので。今回何まくの?何に挑戦しておくの?ってことをやってきました。
前田:1回目、2回目、3回目は種まきしてて。それをあとで伏線回収していくと。
寺本:はい。2019年にコロナが流行して、どんどん撤退して、飲食事業部が大変ってなったんですけど。『3色だけでセンスのいい色』が1年で12万部、というのがありがたくて。(カフェの事業拡大中の期間も)年間4〜6冊の本を作り続けていて。
前田:じゃあコロナになったとは言え、会社としてはまだ不安ではなかった?
寺本:いえ、めちゃくちゃ不安です。まだまだコロナはどうなるかわからないし、飲食事業部はまだ厳しいのは続いているんですけども…。
前田:本があったから立ち直れた。
寺本:『3色だけでセンスのいい色』は本当にありがたかった。ホント何があるかわからないなと思いましたね。
前田:いろいろな種をまいているからから何かが咲く。種まき上手ですね。
与える人が与えられる。考える人になろう!
前田:社員のみなさんはついてきてくれるんですか? 「寺本さん、また何か言ってるよ」みたいにならないですか?
寺本:2対6対2の法則というのがありまして、何かやろうよ!というとき、勢いのある人、普通の人、足引っ張る人の割合がそうなると。で、私はやっぱり意識の高い、頑張ってくれている2割を育てたい。
社訓の最後の一つに「与える人が与えられる」って書いてあるんですが、それしかない。人生すべてそれですよ!
前田:けっきょく、与える人が与えられる。
寺本:そうである人(与える人)に与えますよ、私はそこを見てますよ、というのを社員のみんなに伝えています。
前田:社訓はみんなに伝わっているんですか?
寺本:伝わっていると思います。社員、アルバイト含めて、社内でスタッフのことをプランナーと呼んでいるんですが、プランナーブックという小さな冊子を作って社訓をお伝えしています。
前田:全員がプランナーなんですか?
寺本:そうです。プランナーとは企画者のことで、作業するだけでなく考える人になろう!という意味でそう呼んでいます。
前田:それいいですね!うち(株式会社NASU)もそうしよ…。
寺本:ぜひぜひ(笑)。
けっきょく、デザインりょく。
(視聴者からの質問):意外性のあるアイディアを生み出すために、どんな行動をしているのか教えてほしいです。
前田:意外性は大事にしているんですか?
寺本:そうですね、差別化という観点では。
前田:カフェだとどう差別化するんですか?
寺本:当時だと、他にない見た目だったり、素材にめちゃめちゃこだわったり、旅のコンセプトやクレープとごとに巻き紙が違う、とかをやったのは日本で初めてだったと思います。
前田:本は世の中にないものを出したいとか?
寺本:本を読んだ後に(読んだ人が)変わってないと意味がないと思っていて。「わかった!」ってなってもらわないと。
前田:納得感というか。
寺本:そうです。なので、1冊を通してワンテーマにして、「3色だけで」とか、「余白をとるだけで」洗練して見えるとか、一生忘れないってくらいまで持っていきたいです。
例えば、『けっきょく、よはく。』を読んで自分のデザインが変わった!ってならないと意味がないので、それはめちゃくちゃ考えています。
前田:『けっきょく、よはく。』は寺本さんが企画で入ったんですか?
寺本:編集さんからレイアウトデザインのOKとNGの本を作ってほしいと言われました。ただ、何をもってOKと言い切っていいのか悩んだんです。こうだから正解って言えないなと思って。
前田:事例みたいなのを作っている時に。
寺本:そうです。そのときに社内で「余白がない!ぎゅうぎゅうだ!」とよく言っていたので、「けっきょく、よはく」というのがそこでバーンと降りてきました。
前田:いろいろやってきた中で、「けっきょく、よはく」じゃんと。
寺本:より洗練して見えるのは余白があることだって、OKの定義を立てたんです。
前田:めちゃくちゃシンプル、わかりやすいですね。
寺本:「OKは余白があること」として、『けっきょく、よはく。』って本になっていきました。「デザインは余白が9割」というコピーも私が提案させていただいてます。
前田:(寺本さんは)表面上のデザインするんじゃなくて、総合的にデザインしてるなって思いました。出版もカフェも結局はデザイン力だなって思っていて、それで直前にこのイベントのタイトルを「けっきょく、デザインりょく。」に変えたんです。
意識や行動が変わっていく
「人生を年ではなく、回と捉える」「与える人が与えられる」「考える人になろう」。寺本さんのお言葉が心に刺さった人が多く、定例会終了直後から早速、意識や行動が変わっていく様子が伺えました。
寺本さん、前田さん、貴重なお話をありがとうございました!