コンセプトとは「言葉の印籠」である。
「おもろ!たのし!いいな!」をモットーに活動するクリエイティブオンラインコミュニティ、前田デザイン室の22期生、山下桃音です。
2019年の秋から進んでいたプロジェクト「モザイクパンツ」にまつわるイベントが2019年12月21日、青山ブックセンター本店さんで開催されました。トークテーマは「前田デザイン室のアートディレクション術」です。このnoteは、イベントのトーク内容の後編をお届けします。
前編のnoteはこちらをお読みください。
登壇者紹介
モザイクパンツに感じた運命
浜田:ここから本題のモザイクパンツのお話を聞いていきたいです。まず、アートディレクターをやろうと思った理由は何ですか?
水上:モザイクパンツ以前に、前田デザイン室での制作物でパンティが山に貼りついた絵を描きました。確か合宿の時でした。
その絵を説明する時に、広い会議室だったから聞こえないかと声を張って「これはパンティの山です!」と言ったら思いのほかウケてしばらくネタにしていただいて。
その後、前田デザイン室のプロジェクトでパンティの缶バッジを制作するとき「パンティといえば水上さんでしょ!」と声をかけていただいてアートディレクターをしました。そして今回モザイクパンツをやる流れになり「アートディレクターやらない?」と前田さんから声をかけてもらいました。実は本業の方がリニューアルのタイミングですごく忙しくて迷ったんですけど、パンツが続いていたから少し運命を感じて。やるしかないと(笑)。
前田:9月から12月まで4ヶ月のプロジェクトか、長かったよね。
浜田:今回モザイクパンツ発売記念イベントとは言ってるんですけど、ここにいるお客さんからすれば「モザイクパンツってなんぞや?」という感じですよね(笑)。その名の通りモザイクがついたパンツです。これが生まれたのは雑誌『マエボン』の1コーナー、「あったらいいな」という企画で、最初は前田さんの頭の中の妄想でした。
前田:モザイクパンツのメモを机の上に置いていたら、当時小4の娘が来て「パパ、これめっちゃいいやん!」って。だから絶対いけるなと(笑)。だって小4の女の子が見て言うんだからね。
浜田:それでマエボンに「一緒にモザイクパンツを作ってくれる企業を募集しています」という文言と前田さんの携帯電話番号を書いてパートナー探しをしました。
マエボン制作が2018年の夏から秋頃だったので、始まりは1年前くらいですね。マエボンは大人が全力でふざける雑誌なので、エッジの立った企画があってもいいと思ってはいました。でも実際「モザイクパンツを作りたい作りたい!」となった時に「あれ……、本当に作るんだ(笑)」みたいな気持ちに私はなりました。水上さんは、どうでしたか?
水上:同じです。マエボンには妄想企画と書いてあったので。でも実際作るって流れになってるし、前田さんサンプルまで作っていたから(笑)。
前田:勝手に僕がサンプル作ったもんね、見切り発車で。某百貨店のバイヤーさんと知り合って、パンツを作ってる人が居たから紹介してもらった。「今作ってしまうしかない」って思ったから。ビジュアルとしての旗が出来たらリアリティが増したよね。旗を作るって言うのは、ディレクションの大きな要素だから。
アートへの執念
浜田:モザイクパンツプロジェクトでのディレクションについて聞きたいです。
水上:印象に残ってるのは、プロジェクトが進んでアートブックの制作も終盤になってから前田さんに「テーマ決めよう」って言われた時ですね。私の中では「モザイクパンツをテーマにした展覧会」というテーマがあって、そこに自由にアートを飾っていくイメージだったんです。「なんで?これじゃだめなの?」って最初は思ったから、「出されたものに対してチューニングしていくのがディレクションだと思います」と答えました。その時に「そのチューニングを言語化しないとだめだよ」って言われて「あそっか」って。その辺が見えてなかったなと気づきました。
前田:いいこと言ったね俺。
浜田:俺(笑)。そもそもこれってなんで青山ブックセンターさんに置いていただいているかと言うと、パンツとアートブックがセットになっているからなんですよね。あとパンツを入れる箱のデザインもしましたよね?
水上:はい。アートブックとモザイクパンツをセットにした時にどういう見え方が1番いいかなと思って。「アートとして売りたい」っていうのが旗としてあったので、それを大事にしながら綺麗にまとまり過ぎないようにした方がアートとして広がりがあるかなと。透明の袋で箱と本があるっていうのが分かるように仕様を決めて、そこからどんな風にするか詰めていきました。
前田:このパッケージはめちゃめちゃ良いと思った。僕は思いつかなかったからすごいよ。
水上:箱の中に本とモザイクパンツ入れるとパッと見ただの箱で、そうなると面白くない。真空パックがいいなと思って進めていたんですけど、最後機械の不調があって結局真空には出来なくて。でも透明で中身が見えるという点では出来ました。
前田:アルミみたいな袋の案もあったよね。
水上:それだとアートブック背表紙と背表紙の裏に広告枠があるんですけど、その広告が見えなくなってしまうので。
浜田:前田デザイン室で制作する本には毎回広告枠を付けています。資金調達の観点もあるんですけど、新たな出会いが生まれるところがいいなと。今回は、なんと同じ方が表も裏も買ってくださったんですよね。
前田:なんという物好き(笑)!もちろんいい意味で、ですよ。本当にありがたいです。広告主は鷹野雅央さんっていう長野の椅子会社の3代目で、すごくしっかりした会社なんです。
僕がツイートしたアイデアで、「オナラ大丈夫椅子」っていうのがあるんですが、作ってくれているらしい(笑)。遊び心のある面白い人です。
(モザイクパンツアートブックの広告枠ページ)
コンセプトとは、言葉の印籠
浜田:アートブックのディレクションの話をもう少し聞きたいです。
前田:水上さんがアートブックのテーマを「展覧会」と表現してたけど、それだとちょっと解像度が荒い。どんな展覧会にするかっていうのがあるわけだから。それを言語化するべきなのかなって僕からは言ったけど、そのタイミングが、かなりの土壇場だったよね。
水上:アートブックは、前田デザイン室のメンバー20名弱の方に作っていただいてて、出来栄えが70%、人によっては90%くらいまで進んでる段階でその問いをいただきました。「どうしよう」って頭を抱えてしまって。とはいえ納得できる部分もあったので、急遽Webのミーティングを開催して「モザイクパンツは爆発だ」っていうテーマになりました(笑)。
前田:岡本太郎の「芸術は爆発だ」から転じてというのもあったんだっけ?
水上:はい。やっぱりモザイクパンツを1番最初に見た時の「ギョッ」とした感じをアートブックにも感じたくて。それを言葉にするなら「爆発」かなと。
浜田:クリエイターの方にフィードバックがあったじゃないですか?“爆発”というテーマが出てからフィードバックはしやすくなりましたか?
水上:意識が変わりました。軸が出来たので、例えば色が普通だったら「もっと狂った色にしてください」とか言いやすくなりました。
浜田:ディレクションですね、まさに。
前田:それって「印籠」だと思ってて。腑に落ちない修正とか依頼で「これなんで?」と言われたら、今回なら「芸術は爆発だ!ギョッとするやつでいきたいです」と言えば納得してもらえるよね。言葉の印籠というか。見せるだけで「ハハーッ、そうでした!」となる印籠を作ることが大事なの。世の中で言うところの「コンセプト」なんですけど、「印籠」の方が効果ありそうな感じがしています。
水上:前田デザイン室ってみんながデザイナーではないし、経験の差もあります。だから「こうしてください」と直す時や、「何でこうなったか?」は印籠があると説明しやすくなります。今話しを聞いていて思ったんですけど、コミュニティの方が、会社より印籠が必要なのかもしれない。
浜田:会社だと少数精鋭で進みがちですが、コミュニティだと関わる人数が多いですもんね。多様な人が集まる中で物を作るからこそ、よりディレクションの力が重要になるんでしょうね。
前田:確かに。アートディレクションの力付けようと思ったらコミュニティでやるのがいいかもね。編集長とか。多くの人を調整しながら物を作るっていうのは大変だから。
水上:例えばこのアートブックの中で、エンジニアの方も参加してくださったんです。入稿の2週間前で、まだページ担当が決まっていないところがあって「誰かやりませんか?」と呼びかけた時に手を挙げていただいて。イラストレーター操作も不慣れだったんですけど、入稿間近2〜3日前に前田デザイン室の合宿があったから夜中一緒に作業しました。
前田:ああ、あの時に作ったんだ。そういうのいいね、コミュニティって。デザイン初めての人が、教えてもらいながらアートブックに作品を出せるってすごくいい。
水上:一緒に並走しないと物は作れないと感じました。
慣れてないから離すんじゃなくて、どう生かすか?「これを作りたいけど出来ない」という技術的なことは、私やデザインに慣れている人で教えられますから。
前田:じゃあコンセプトを考えてもらって技術的なサポートもしたの?
水上:はい。しました。
前田:すばらしい。水上さんもガーター防止になっているね。
ディレクションは近未来への想像力
浜田:次もしプロジェクトリーダー、アートディレクターをすることがあったらこうしようというのはありますか?
水上:今回痛感したのが、準備が9割だなって。その準備には色々あって、例えば「画像の解像度が足りてるか」とかそういうのって知識が無いと出来ないことなので、そこを事前に共有したり。入稿が出来て初めて自分で出来たと言えると思うので、そこまで体験してもらうなら準備をきちんとしないといけない。あとは最初の段階で印籠を決める。
前田:僕は、ディレクションって近未来への想像力だと思っています。この先何が起こって、どういうことになって……。進捗も含めて、「この本がどういう仕上がりになるか?」という想像力。これってね、1回経験すると次からは見えるんですよ。仕事でも活かせるところだし、今後も意識するとより良いのかなと。
浜田:水上さん的にプロジェクトを通して、仕事で生かせそうなところはありますか?
水上:私仕事では化粧品を扱っているので、モザイクパンツとは信じられないくらい真逆なことやっているんです(笑)。とにかくエレガントに。インハウスでトーン&マナー厳しくて、フォントも2種類くらいしか使えない感じ。その中で、コミュニティではこういう振り幅が大きいこと経験すると、本業の仕事内容を客観的に見られるようになりました。
アートブックは装丁と印刷にこだわりあり
浜田:そろそろお時間なんですけど、お2人の方から語っておきたいエピソードがあれば。
前田:デザイナーさんもいらっしゃるので、色のことを話させてください。このアートブックは発色が鮮やかなんですが、一切特色を使ってません。これってすごいことなんです。金と銀と蛍光以外の特色印刷全部指定出来る、日本写真印刷コミュニケーションズさんの特殊技術を使って印刷しました。こんな緑、普通なら絶対出ないんです。
浜田:水上さんからは、何かありますか?
水上:またアートブックのことになっちゃうんですけど……。これは“ドイツ装”と“コデックス装”と言われる装丁のミックスなんです。厚紙が表紙と裏表紙に貼られていているのが“ドイツ装”。
(ドイツ装)
それから“コデックス装”というのは、背表紙が無く180度本が開きます。通常の“無線綴じ”という装丁は後ろを糊で止めて、背表紙もあるのでそこまで開かないんですよ。今回アートブックを作っていただくにあたって、180度開くので、ノドと言われる中心の部分を気にせず作品を作っていただいて大丈夫ですと話をして、作ってもらいました。
(コデックス装)
浜田:それは水上さんが決めたんですか?
水上:ドイツ装はしたかったんですけど、コデックス装は日本写真印刷さんからです。コデックス装にしたら費用が抑えられるし、180度開くのでその方がいいんじゃないかと提案いただきました。
前田:それぞれページごとの色で面白い背になるっていうのもあるしね。
水上:そうですね、綺麗になりきれてないところがアート性を感じるかなっと。
前田:アート性を大事にしてくれてたのを今日聞いて感じました。僕の意向を汲み取ってくれてるなって。ディレクターって汲み取り力だから。水上さんは一貫してアート作品を意識くれてたから、さすがです。
モザイクパンツは面白グッズと勘違いされがちなんですが、僕はモザイクパンツをアートにしたい。世界中で通用するんじゃないかと考えています。だから、ミラノサローネとかMoMA美術館に持っていくという大きい目標があります。
質疑応答コーナー
ーー水上さんに質問です。前田デザイン室に入って1番良かったことはなんですか?
水上:横の繋がりが出来たことが1番ですね。それからさっき言ったことと重複しますが、仕事では出来ない振り切ったことをやれるからデザイナーとして視野やデザインの幅が広がりました。
前田:横の繋がりとは、友達ってこと?
水上:はい。Facebookで色々交流してるんですけど、デザインの話だけじゃなくて普通の普段のくだらない話もできる仲間に出会えました。
浜田:前田デザイン室メンバーって、みんな仲良いですよね。
前田:「おもろ!たのし!いいな!」って前田デザイン室の行動指針なんだけど、魔法みたいな言葉でね。言葉通り無邪気で楽しい人しかいない。怖い人いないよね、怒鳴ったりとか。
水上:面白がる人達ばかりなので、たまに麻痺してしまって、高校の友達とかには「え?何やってるの?」って言われたりします(笑)。
前田:「何やってんの?」って言われるのは実は1番嬉しい。前田デザイン室は、理解できないこととか普段体験出来ないことを出来る場所です。ちなみに前田デザイン室は、今絶賛新メンバーを募集中です。
浜田:CM入りました(笑)。
「モザイクパンツ発売記念 前田デザイン室のアートディレクション術」のレポートは以上です。最後までお読みいただきありがとうございました。
前田デザイン室へはこちらから。
また、モザイクパンツは青山ブックセンター本店と本日より前田デザイン室のECサイトでも購入ができます。
書き起こし、編集:山下桃音、浜田綾
写真:赤松翔、浜田綾、水上肇子、川出康介、惣島厚
バナー画像:山下桃音、前田高志