結局、アートディレクションとはこういうこと。
あけましておめでとうございます。「おもろ!たのし!いいな!」をモットーに活動するクリエイティブオンラインコミュニティ、前田デザイン室の22期生 山下桃音です。
2019年の秋から進んでいたプロジェクト「モザイクパンツ」にまつわるイベントが2019年12月21日、青山ブックセンター本店さんで開催されました。トークテーマは「前田デザイン室のアートディレクション術」です。このnoteは、イベントのトーク内容をお届けします。
これが前田デザイン室のアートディレクション
浜田:前田デザイン室でものを作る上で、デザインを機能させるためのアートディレクションとはなんですか?
前田:前田デザイン室はいろんなものを作ってきたけど、僕はアートディレクターとしてはどれにも参加してない。クリエイティブディレクターの役割を担当しています。実はすごくうずうずしていて、本当はアートディレクターを僕がやりたいくらい(笑)。でもやっぱり若い人たちは自分でやりたいはずだし、僕も若かったら絶対やりたいと思ったはずだから。
僕が意識して唯一アートディレクションしているのは、前田デザイン室全体です。
ビジュアル的にはドット絵に統一してる。前田デザイン室のビジュアルにはドット絵を使うことが多いんだけど、これには狙いがあるんです。一つは僕が任天堂出身だから、ゲームの世界観を意味してる。ゲームには多くの人が楽しかった思い出を持っているだろうし、行動指針の「おもろ たのし いいな」、クリエイティブテーマの「永遠の童心」を伝える役割もある。もう一つは、あのドット絵だったら、誰が作ってもクオリティの差が出にくいでしょ。前田デザイン室にはこれからデザインを始める人も多いから、クオリティに差が出にくいようあえてそうしています。
僕は仕事でのアートディレクションは「世界観構築とクオリティ管理」って言ってるんですけど、やっぱりオンラインコミュニティでは違う気がして。それをやってしまうと、指示が細かすぎてみんな死んでしまうと思う(笑)。水上さんの会社は、ディレクターっているの?
水上:今の会社はインハウスでデザイナーが4人居て、個人個人仕事をしています。アートディレクターとデザイナーの住み分けはしていません。前の会社でも、気づけば1人で打ち合わせから納品までやっていました。人手が足りてなくて。
前田:多くの会社はたぶんそうだよね。任天堂もそうだった。僕は、昔から広告代理店にめちゃくちゃ憧れがあって。アートディレクター、クリエイティブディレクターって役割と責任を持ってできることが羨ましかった。それこそ漫画『左利きのエレン』の世界みたいな。前田デザイン室は僕のコンプレックスで出来ているからね。若い人でも「アートディレクターをやりたい」って言われたら「ぜひ!」って応援したい。
フルスイング!ディレクションでガーターを防ぐ
前田:前田デザイン室のアートディレクションで意識しているのは、ボウリングで子どもが投げる時にガーターにならないレーンがあるでしょ?あの状態を作りたくて。
「こうしたいです」って言われたら、基本すべてに賛成はしたい。だけどガーターになりそうなやつは、僕が防ぐ。明らかに失敗しそうとか、コンセプトとズレているとか。そういう企画は、ピンに誘導するようなガードを作りたい。そうすると、フルパワーでおもいっきり重い球を投げられるんじゃないかなと。そういう場所になるようにディレクションをしてきました。
浜田:私は前田デザイン室で、2冊の本の編集長をさせていただきました。最後のクリエイティブチェックは前田さんに見てもらいますが、それ以外はリーダーとして決めました。自由にさせてもらえますよね。
前田:応援したいからね。雑誌『マエボン』を作っているとき、編集長をやっていた浜田さんは最初、何でも僕に聞いてたから「編集長は浜田さんでしょ?」って話をしたもんね(笑)。
浜田:「なぜミーティングに来なかったんですか?」レベルから聞いていましたから(笑)。「前田さんも一緒にするんですよね?」って。
前田:今はもう分かってくれていますが、僕としてはガーターになるときだけ防ぐ役割だから静観しているわけですよ。こんな風にプロジェクトのアートディレクターがディレクションしやすくなるように、僕は前田デザイン室全体をディレクションしています。
ちなみに僕は、会社員時代にデザインとしての事細かなディレクションは受けたことがないんです。だから僕が言っている「ディレクション」ってかなり独自なのかもしれない。
“鬼フィードバック”というデザイナーさんのフィードバックをする過程を書いてもらった記事がいくつかあって、どれもバズったんですけどね。あれは僕の中ではディレクションと思ってなくて、あれはもう僕がデザインしちゃってるんです。そうじゃなくてディレクションっていうのは、考えさせることなのかなと。答えはデザイナーに出してもらいたいから、問いかけて答えを出させたい。コルクの佐渡島庸平さんとか見てたらそんな感じなんですよね。だからアートディレクターとデザイナーって編集者とライターの関係に近いのかな。答えを出してしまったらデザイナーではなく、オペレーターになっちゃう。答えを出すのはデザイナーで、問いかけするのがアートディレクター。
デザインぽいデザインをするな。良いデザインはアイデアが“膨らむ”
浜田:水上さんは今回モザイクパンツプロジェクトのリーダー兼アートディレクターだったわけですが、前田さんから受けたディレクションで「これいいな」と思ったことはありますか?
水上:今回もあるんだけど、まずは過去の話でもいいですか?
前田:うん、過去のも知りたい。
水上:私が前田さんにディレクションを受けて、1番衝撃を受けたことなんですけどね。前田デザイン室の中には“スイスイ”っていうデザインスクールがあって、それのメインのビジュアルを作る時に……。
前田:あぁ!あれ良いディレクションした、俺。
浜田:俺(笑)。
前田デザイン室はプロジェクト型のものづくりをするコミュニティですが、デザインを学べるスクール要素もあるんですよね。それが“デザインスクールスイスイ”です。キービジュアルとなるバナーを水上さんが作ってくれたんだけど、最初と完成したものが結構変わったんですよね。
前田:なんかね、こじゃれてるの。今っぽいの作ってたよね。
(デザインスクールスイスイのキービジュアル、初期案)
水上:はい……。仕事でもデザインしているので、作った時は無意識に普遍的なものを考えてしまってて。これを出した後に他のプロジェクトの打ち上げがあったんです。そこで前田さんが「水上さんが好きなもの作ってくれていい」と言ってくれました。「すごい意味不明な気を使ってたなぁ」と気づきました。
前田:スイスイは3人のデザイナーでやってるから最大公約数というか、空気を読んだよね。それがめっちゃ見えてしまった。みんなが好きそうな、デザインぽいデザインしたみたいな。デザインぽいデザインは、俺1番嫌いなのよ。「何でも成立するじゃない」ってデザイン。
浜田:前田さん、その言葉よくおっしゃいますよね。ディレクションする時に「このバナーって、前田デザイン室じゃなくても成立するよね?」って。私からすれば、水上さんが最初作ったやつも「すてきー!」と思ったんですけど、それは今の最終形が私の頭の中では見えていなかったからですね。
前田:元のデザイン悪くはないよ。でもワクワクしないし、先が見えない。
水上さんが、ちょっとレトロな絵を描くっていうのを知ってたんです。以前前田デザイン室でウンチの缶バッジを作った時に、大正時代のグラフィックみたいな感じで作っていたんです。
「あんな感じで好きな世界観でやったら?」って言ったらこれが出てきた。こっちの方が断然いいよね。
(デザインスクールスイスイのキービジュアル。ディレクション後)
前田:この取り組みは、スイミングスクールみたいに級が上がっていって、20級から1級を目指すっていうものなんです。級が上がるごとにバッジがもらえたり。キービジュアルが、最初の案からこっちに変えようとなった時に名前も“スイスイ”に変えさせてもらいました。これは僕が決めてしまったけど。スイミングスクールっぽいし「デザインがスイスイうまくなる」ってわかりやすいじゃないですか。そうするとこの時点でプロジェクトの旗ができたわけです。やりたいこと膨らまないのは良いディレクションじゃない。でもこのバナーだったら膨れ上がっていくよね。水泳バッグみたいなのも作れるし「先生はどんな人なんだろう?」とかそういう展開。
浜田:この時にさっき言ってた「ガーターの防止、思い切り振りに行け」みたいなのを感じました。しかも水上さんが前田デザイン室のFacebookにこの画像を投稿したとき、やはり皆からの反応がめちゃくちゃ良かった。そういうものなんですね。
水上:そうですね。最初作ったものは軽い玉でエイッ!って感じだったから(笑)。
前田:軽い玉で真ん中のピン当てにいってるよね。で、7本くらい倒れたみたいな(笑)。俺が細かくあれこれこうしてと言ったら嫌だったと思うけど、水上さんの後ろからボール持って「思いっきり行け!オラァァッ!!」って導いた。全力で投げられるようにするまでがディレクションだからね。
浜田:はい。お二人のいい関係性が見えました。
後編に続きます。
書き起こし、編集:山下桃音、浜田綾
写真:川出康介、赤松翔、惣島厚、前田高志、浜田綾
バナー画像:山下桃音、前田高志